Case175 特別研修中の市立教員の自殺について市及び県の安全配慮義務違反が認められた事案・鹿児島県・U市(私立中学校教諭)事件・鹿児島地判平26.3.12労判1095.29
(事案の概要)
本件労働者は、音楽科の教員免許を持ち、被告市が設置する本件中学校において音楽科と家庭科の教員をしていました。本件労働者は、前任校にいた頃からメンタルクリニックに通院しており、本件中学校でもストレス反応との診断を受けて病気休暇を取得していました。
本件中学校の校長は、復職直後の本件労働者に対して、音楽科と家庭科に加え、専門外である国語科の授業を担当させ、これにより本件労働者の授業時間は週約12時間から約20時間に増加しました。
本件労働者は、急に有給を取得したり、血を吐いたと虚偽の事実を告げて救急車を呼ぶなど通常ではありえない行動をとるようになっており、校長らに対してパニック状態になると説明していました。
しかし、校長らは、本件労働者の健康状態などを特段考慮せずに、本件労働者について県教育委員会に対して指導力不足等教員の申請をし、その結果、県教委は本件労働者に対して指導力向上特別研修の受講を命じました。
本件労働者は、研修の受講を命じられてから希死念慮を抱くようになり、研修開始後にも担当指導官らに対してメンタル不調を訴えていましたが、研修期間中に自殺しました。
本件は、本件労働者の両親である原告らが、校長や県教委、担当指導官らの一連の行為により本件労働者が自殺に至ったとして、市及び県に対して損害賠償請求した事案です。
(判決の要旨)
判決は、>電通事件判決が示した使用者の安全配慮義務の内容を引用したうえで、当該安全配慮義務は地方公共団体とその設置する中学校に勤務する地方公務員との間においても同様に当てはまり、地方公共団体が設置する中学校の校長は当該安全配慮義務を負うとしました。
そして、校長による指導、県教委が行った人事上の措置、研修において担当指導官らが行った指導といった一連の行為は、本件労働者の精神疾患を増悪させる危険性の高い行為であったとして、県および市が信義則上の安全配慮義務に違反し、精神疾患の発症および自殺との相当因果関係も認められるとして、被告らの損害賠償責任を認めました。
もっとも、損害について、本件労働者に精神疾患のり患歴があったこと、本件労働者が病気休暇の延長を断っていたことなどから、素因減額として3割、過失相殺として2割、合わせて5割の減額がなされました。
※確定