Case176 うつ病の既往歴がある職員が上司のパワハラを訴えていたにもかかわらず適切な対処がなされず自殺に至ったことについて市の安全配慮義務違反が認められた事案・さいたま市(環境局職員)事件・東京高判平29.10.26労判1172.26

(事案の概要)
 本件労働者は、前職場において「うつ病、適応障害」の診断で89日間の病気休暇を取得した半年後に、被告市環境局のセンターに異動し業務主任として勤務していました。
 本件労働者は、指導係である上司から暴行を含むパワハラを継続的に受けており、センターの係長に対して上司から暴力などのパワハラを受けていると訴えていましたが、特段の事実確認等は行われませんでした。
 また、本件労働者は、センターの所長に対して、上司のパワハラが原因で体調が悪く、自殺念慮もあると訴えながらも勤務を続けたのち自殺しました。
 本件は、本件労働者の両親である原告らが、安全配慮義務違反を主張して、市に対して損害賠償請求した事案です。

(判決の要旨)
 判決は、市が負う安全配慮義務には、精神疾患により休業した職員に対し、その特性を十分理解した上で、病気休業中の配慮、職場復帰の判断、職場復帰の支援、職場復帰後のフォローアップを行う義務が含まれるとしました。
 また、市は、安全配慮義務のひとつである職場環境調整義務として、良好な職場環境を保持するため、職場におけるパワハラを防止する義務を負い、パワハラの訴えがあったときは、その事実関係を調査し、調査の結果に基づき、加害者に対する指導・配置換え等を含む人事管理上の適切な措置を講じるべき義務を負うとしました。
 そのうえで、係長が本件労働者からパワハラの訴えを受け、パワハラの有無について事実関係を調査確認し、人事管理上の適切な措置を講じる義務があるにもかかわらず、事実確認をしなかった点や、所長が本件労働者から自殺念慮までも訴えられたにもかかわらず、適切に対処せず、自己の判断で勤務を継続させた点などに市の安全配慮義務違反が認められ、自殺との相当因果関係も認められるとしました。
 もっとも、本件労働者にうつ病の既往歴があることや、両親である原告らにも主治医等と連携をとるなどして本件労働者のうつ病の症状が悪化しないように配慮する義務があったことなどから、素因減額及び過失相殺により損害を7割減額しました。

※確定

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