Case201 将来法人が経営する病院で一定期間就労すれば免除するとの合意の下に法人が看護学校の修学資金を貸与する旨の契約が労基法16条に反し無効とした事案・和幸会(看護学校修学資金貸与)事件・大阪地判平14.11.1労判840.32
(事案の概要)
原告医療法人が、被告労働者らに対して修学資金の返還を求めた事案です。
被告労働者Aは、高校卒業後に法人のグループ企業が経営する看護学校に入学しました。被告労働者Aは、法人から修学資金の貸与を受けなければ入学できないと説明され、入学時に、法人と看護婦等修学資金貸与契約(本件貸与契約)を締結し、法人から修学資金の貸与を受けました。
本件貸与契約において、修学資金は原則として返還すべきであるが、①免許取得後2年以上勤務した場合は、施設設備充実費および協力金は免除し、入学金、授業料は返還する、②免許取得後3年以上勤務した場合は、修学資金全額を免除する、と定められていました。また、法人経営の病院以外でアルバイトしたときや、看護学校を退学したとき、免許取得後直ちに退職したなどの場合には、修学資金を利息とともに返還しなければならないと定められていました。
被告労働者Aは、看護学校入学後、法人が経営する病院での勤務を求められ、同病院で勤務していましたが、当初の話と違って看護学校が休みの日も同病院で勤務しなければならなかったことなどから、看護学校を退学しました。
被告労働者Bも、法人が経営する病院で働きながら、本件貸与契約を締結し、法人のグループ企業が経営する看護学校に看護学校に通っていましたが、看護学校を退学し、病院を退職しました。
法人は、被告労働者らおよびその連帯保証人らに対して、修学資金の返還を求めました。本件貸与契約が違約金および損害賠償額の予定を禁止する労基法16条に違反するかが争点となりました。
(判決の要旨)
判決は、修学資金などの返還または免除の合意契約は、その条項の形式的な規定の仕方からのみ判断するのではなく、貸与契約の目的・趣旨などから、当該契約が、本来本人が負担すべき費用を使用者が貸与し、一定期間勤務すればその返還債務を免除するというものであれば労基法16条に違反しないが、使用者がその業務に関し、技能者養成の一環として使用者の費用で修学させ、修学後に労働者を自分のところで確保するために一定期間の勤務を約束させるものであれば、労基法16条に違反するとしました。
そして、本件貸与契約および連帯保証契約は、将来法人の経営する病院で就労することを前提として、2年ないし3年以上勤務すれば返還を免除するという合意の下、将来の労働契約の締結および将来の退職の自由を制限するとともに、看護学校在学中から法人の経営する病院での就労を事実上義務づけるものであり、労働者の就労を強制する経済的足止め策の一種であるとして、労基法14条および16条の禁止規定に違反するとし、会社の請求を棄却しました。
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号〔略〕のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
労基法14条1項
※控訴