Case207 労働者の行為が犯罪に当たるとの虚偽の説明をされて書かされた退職届が錯誤無効とされた事案・テイケイ事件・東京高判令5.2.21

(事案の概要)

 担当事件です。

 原告労働者は、警備員として福井県の現場に派遣されていました。

 原告は、未払い賃金等について被告会社と交渉するため、同じく福井に派遣されていた2名とともに労働組合に加入したばかりでした。

 ある日の業務終了後、原告は、一緒に組合に加入した2名とともに、会社の役員らに車でホテルの一室に連れて行かれ、原告らが現場で遅刻等をしたとして事情聴取を受けました。

 原告は、福井に派遣されてから一度、休憩時間を1時間寝過ごしてしまったことがあり、会社の役員らから、当該事実を認めて今後は注意する旨の「決意表明」を書くよう求められ、他2名と同様にこれを書きました。

 すると、被告役員らは、原告らが遅刻した時間について申告せず給料の支払を受けていることが発覚した、原告らの行為は「刑法第246条の2」の「電子機器使用詐欺罪」という執行猶予のつかない犯罪だと述べ、「調書」「警察署」などの言葉を使い、今度は原告らに自分の犯罪行為を認める「自認書」を書くよう求め、原告らは言われるままに「自認書」を書きました。

 その後、役員らが原告に対して、現職の人間は警察に連れていくが、退職すれば警察には連れていかない旨を述べたことから、原告はその場で退職届にサインしました。他の2名も同様に退職届にサインしていました。

 ホテルでの一連のやり取りは、19時30分頃から24時過ぎまで約5時間程行われていました。

 本件は、原告が退職届は錯誤により無効であるなどと主張し、雇用契約上の地位確認およびバックペイの支払いを求めた事案です。

(判決の要旨)

一審判決・東京地判令4.3.25労判1269.73 

 判決は、原告は、役員らから退職勧奨を受けるまで、会社において就労を続ける強い意思を持っていたのであるが、①役員らから、原告の行為が「電子機器使用詐欺罪」に当たり、執行猶予が付かない重大な犯罪であるとの虚偽の説明をされたこと、②役員らから、自己の行為が「電子機器使用詐欺罪」に当たることを認識していた旨の「自認書」を書かされていたこと、③役員らから、現職の人間は警察に連れていくが、退職すれば警察には連れていかない旨を告げられたことから、犯罪者として警察に突き出されることを避けるためには会社を退職するしかないと誤信したために本件退職の意思表示をしたのであるとし、退職届による本件退職の意思表示は錯誤による意思表示として無効であるとし、原告の請求を認めました。

控訴審判決

 控訴審も原審の判断を維持しました。

※上告

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