Case161 労働者の退職の意思表示はその経緯等を踏まえて労働者の自由な意思に基づくものでなければならないとして退職合意を無効とした事案・グローバルマーケティングほか事件・東京地判令3.10.14労判1264.42

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社で基本給30万円+歩合給の美容師として働いていましたが、会社は、原告の給与を基本給25万円+歩合給に変更しました。被告代表者は、減給に先立ち、全従業員が参加するミーティングにおいて店舗の業績が不振であることから基本給を一律5万円減額し、給料分の売上を上げた場合には3万円プラスし、上げられない場合は3万円マイナスとなる旨を説明し、従業員から特段の異議は出ませんでした。

 その後、原告は、上司との関係が悪化し、被告代表者から協調性の欠如等を理由に解雇を通告されましたが、被告代表者が作成した退職合意書等に署名せず、その場に居た上司の手を振り払って退室しました。

 その翌日、被告代表者及び会社代理人が原告に対して、防犯カメラには暴行の場面が記録されていないにもかかわらず、前日の面談で原告が被告代表者や上司に暴行しその様子が全部録画されている、退職に応じないなら損害賠償や懲戒解雇になるなど告げたため、原告は退職合意書等に署名しました。

 本件は、原告が賃金減額及び退職合意の無効を主張して、雇用契約上の地位の確認及び賃金の支払い等を求めた事案です。

 

(判決の要旨)

1 賃金減額の有効性

 判決は、労働者の同意に基づき雇用契約の内容である労働条件を労働者に不利益に変更する場合、労働者が使用者に対し交渉力の弱い立場であることに照らせば、労働者に与える不利益の程度や使用者による不利益変更についての説明等を踏まえて、当該不利益変更を受け入れる労働者の意思表示が自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しなければならないとしたうえ、本件ではそのような同意は認められないとして賃金減額を無効としました。

2 退職合意の有効性

 判決は、労働者が使用者の退職勧奨に応じて退職の意向を示した場合、使用者と労働者との間の交渉力に差異がある一方で、退職が労働者にとって生活の糧を喪失するなどの大きな不利益を生じさせ得ることに照らせば、労働者による退職の意思表示というためには、当該退職の意向が示されるに至った経緯等を踏まえ、労働者の自由な意思に基づいて退職の意思が表示される必要があり、自由な意思に基づくといえるか否かは、当該意思表示をした動機、具体的言動等を総合的に考慮して判断するのが相当であるとし、原告の退職の意思表示は自由な意思に基づくとはいえないとして退職合意を無効としました。

※控訴

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