Case210 保険商品の販売にかかるノウハウは本人の能力と努力によるものであるとして保険会社の元執行役員に対する競業避止条項が無効とされた事案・アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件・東京高判平24.6.13
(事案の概要)
原告労働者は、外国保険業者である被告会社に勤務し、日本支店において金融法人本部長と執行役員を兼任し、月額131万円等の給与を得ていましたが、退職しました。
原告と会社の合意では、会社と競合する生命保険会社等への転職を2年間禁止する競業避止条項に違反した場合には退職金全額を不支給とすることが定められていました。
原告は、退職直後、生命保険会社の取締役執行役員副社長に転職しました。
これに対し、会社が競業避止義務違反を理由に退職金を不支給としたため、原告は会社に対して退職金の支払いを求めました。
労働者性も争われ、肯定されています。
(判決の要旨)
一審判決(東京地判平24.1.13労判1041.82)は、退職後の競業避止義務の合意は、使用者の正当な利益の保護を目的とすること、労働者の退職前の地位、競業が禁止される業務、期間、地域の範囲、使用者による代償措置の有無等の諸事情を考慮し、その合意が合理性を欠き、労働者の職業選択の自由を不当に害するものであるときは、公序良俗に反し無効となるとしました。
そして、①保険商品の販売にかかるノウハウは本人の能力と努力によって獲得したものでありその流出を禁止することは使用者の正当な利益の保護といえないこと、②2年の期間が相当とはいえないこと、③地域の限定もないこと、④同業他社への転職を禁止することは広範にすぎること、⑤賃金は相当高額であるものの代償措置として不十分であること等から、競業避止義務の合意は合理性を欠き、公序良俗に反し無効とし、原告の請求を認めました。
控訴審もこれを維持しました。