Case365 固定+歩合制の配送業者の労働者性を認め、固定給を労基法27条の保障給と同様のものであるとして売上が固定給に不足する分を労働者負担とする契約を無効とした事案・東陽ガス事件・東京地判平25.10.24労判1084.5

(事案の概要)

 原告労働者らは、被告会社と当初「業務委託契約書」に加え「雇用契約書」を締結してLPガスボンベの配送等の業務を行っていました。

 雇用契約書には月給22万円と記載されていましたが、業務委託契約書上は出来高払い制とされていました。

 会社は、原告の売上から車両代、燃料代、車両修理費等の車両経費および月額3万9000円の管理費を差し引き、これが22万円を超えるときは超えた分を歩合給として支払い、22万円に達しないときはその不足額を翌月以降の売上から差し引いていました。そして、翌月以降も売上から車両経費及び管理費を差し引いた金額が22万円に達しないときは、その差額を貸付金として累積させていました。

 本件は、原告らが会社に対して、労働者性が認められることを前提に、月額22万円の固定給が労基法27条の保障給に当たると主張して、不足分を翌月の売上から差し引くことが無効であるとして不当利得返還請求をした事案です。

 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

労基法27条(出来高払制の保障給)

(判決の要旨)

1 労働者性

 判決は、労働条件が明記された雇用契約書が交わされ、雇用契約であることを前提にした対価の支払方法が採られていることなどからすれば、本件契約の性質としては、雇用契約であることが推認されるとしたうえ、以下の業務実態から原告らの労働者性を認めました。

・業務用携帯端末を持たされ、配送先を指示されており、指示された配送をことわることができず、許諾の自由がない

・会社の親会社のマークが入った車両を使用し、制服を支給又は購入させられ配送を行っていたこと、行動基準マニュアルが配布されていたこと、配送終了時間の指定やLPガスボンベを車両に積み置くことの禁止が指示されていること、携帯端末を通じて配送状況の把握が可能であったことなどから、配送業務の履行方法についても具体的な指揮監督が行われている

・運転日報作成のため、事務所に帰社することが指示されており、配送終了時間の指示もされていたことから、勤務場所や勤務時間について一定程度拘束されていた

・配送先の配信を受けた時点で、代替して他の者に仕事を任せられるわけではなく、この意味で代替性がない

・配送本数という労働の結果に応じて報酬が支払われていることから報酬の労務代償性も認めらえる

・配送業務で使用する機械・器具等の費用は会社から負担するよう求められたものであり、原告らに事業性があるとは認めがたい

2 不足分の控除について

 判決は、労基法27条の趣旨は、出来高払など仕事の量に賃金を対応させる労働形態は、仕事の単位量に対する賃金率を不当に低く定めることにより労働者を過酷な重労働に追いやったり、一定量の仕事がなされなければ仕事の全部を未完成とみなして全く賃金を払わないなどの弊害があることを踏まえ、賃金を労働時間ではなく完遂した仕事の量や成果によって支払う出来高払等の雇用契約について、労働時間を単位として算定した賃金の一定額を、使用者に最低保障給として定めさせるものであるとし、同条で使用者が定めるべき保障給とは時間給であるとしました。

 そのうえで、本件の固定給は時間給ではないから労基法27条の保障給そのものとはいえないものの、保障給と同様のものと評価することができ、22万円は原告らに対して支払が保障された賃金としての性格を有するとしました。

 そして、車両経費など本来使用者が負担すべき費用を労働者である原告らの負担としたうえで、管理費をさらに負担させ、売上の不足分を原告らの負担として債務に計上することは、労基法27条の趣旨に反するものであり、被告が月額22万円を下回るマイナスを原告らに負わせる限度において本件契約は無効であり、またマイナス額を翌月以降の売上から差し引いて清算させた限度において会社は不当利得返還義務を負うとしました。 

※控訴

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