Case225 配転命令が人事権の濫用に当たるか否かの判断基準を示した最高裁判例・東亜ペイント事件・最判昭61.7.14労判477.6【百選10版62】
(事案の概要)
被告会社は、全国13か所に営業所があり、会社と労働組合との労働協約には「業務の都合により組合員に転勤、配置転換を命ずることができる」、就業規則には「業務上の都合により社員に異動を命ずることがある。この場合には正当な理由なしに拒むことは出来ない」と定められていました。
会社は、広島営業所の主任の後任を補充する必要性から、神戸営業所勤務の原告に対して、広島営業所への転勤を内示しましたが、原告は家庭の事情(71歳の母親、発足したばかりの保育所の保母として勤める妻及び2歳の長女と同居)を理由に転勤を拒否しました。
そこで、会社は、名古屋営業所の主任を広島営業所の主任に充て、原告に名古屋営業所への転勤を内示しましたが、原告はこれも拒否しました。
会社が原告に対して名古屋への本件転勤命令を発令したところ、原告は再度拒否したため、会社は原告を懲戒解雇しました。
(判決の要旨)
一審及び控訴審判決
一審及び控訴審判決は、原告を名古屋に転勤させる必要性は高くなく、原告が家族との別居を余儀なくされ相当の犠牲を強いられるなどとして、本件転勤命令は人事権の濫用であるとして、懲戒解雇を無効としました。
上告審判決
最高裁は、①当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合、又は業務上の必要性が存する場合であっても、②当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないとし、逆に言えば上記のような場合には転勤命令は権利の濫用として無効となるとしました。
なお、業務上の必要性については、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働者の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきであるとしました。
そのうえで、本件転勤命令には業務上の必要性が優に認められ、転勤が原告に与える家庭生活上の不利益も転勤に伴い通常甘受すべき程度のものであるとして、本件転勤命令は権利濫用に当たらないとし、原判決を破棄して控訴審に差し戻しました。