Case371 労働者を退職に追い込む目的で行われた減給措置及び配転命令が無効とされ、横領を認める確認書に署名させられたことをもって労働者が横領を認めたとはいえないとされた事案・Ciel Bleuほか事件・東京地判令4.4.22労判1286.26

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社と雇用契約を締結し、本社(東京)で営業の部長職として業務を行っていました。

 原告は、被告執行役員と面談し、原告の素行が問題であるとして部長職から課長職に降格され、これに伴い月額給与を83万円から75万円に減額されました(本件減給措置)。

 また、原告は、被告執行役員から原告が接待交際費を横領していた旨の本件確認書を示され、これに署名押印しました。

 原告は、被告執行役員から九州地区での勤務を命ずる旨の本件配転命令を受け、これを受け入れなければ原告が接待交際費として計上してきた約400万円を一括請求し、不動産等を差し押さえると告げられました。原告が回答を保留すると、被告執行役員から出勤停止命令を受けました。

 原告は、翌月被告会社を退職しました。

 本件は、原告が被告会社に対して、減額された差額賃金を請求するとともに、被告執行役員らに対して、一方的に減給される、横領嫌疑をかけられる、理由のない配転命令をされるという不法行為を受けたとして損害賠償請求した事案です。

 被告会社は、原告が経費を横領したとして損害賠償の反訴をしました。

(判決の要旨)

1 本件減給措置

 判決は、本件減給措置の当時に就業規則が存在していなかったことから、減給のためには原告の自由な意思に基づく同意が必要としました。

 そして、本件減給時に被告執行役員が「売上をしっかりやったら給与も元に戻す」旨を伝え、原告が「今年よりやったら元に戻すのではなく、それより上げてもらえますか」と答えていたことをもって、原告の同意が自由な意思に基づいてされたと認めるに足りる理由が客観的に存在するとはいえないとして、本件減給措置を無効としました。

 被告会社は、人事権の行使により本件減給措置をした旨の主張もしましたが、仮にそうであったとしても本件減給措置は裁量の範囲外であるとされました。

2 本件配転命令

 判決は、本件配転命令には業務上の必要性はなく、仮に必要性があったとしても、その経緯からすれば本件配転命令は原告に精神的・経済的な圧迫を加え退職に追い込むなどの不当な動機をもって行われたものであるとして人事権の濫用に当たり無効であるとしました。

3 被告執行役員らに対する損害賠償

 判決は、被告執行役員らによる上記各行為は、原告に対する一方的な悪感情に基づき、原告に不当に著しい不利益を与えるものであり、原告に対する共同不法行為を構成するとして、被告執行役員らに対して慰謝料50万円等の支払いを命じました。

4 会社からの損害賠償請求

 判決は、原告が本件確認書に署名押印するなどしているものの、原告は被告執行役員らを怒らせたら何をされるか分からないという恐怖感の下で、本件確認書に署名押印するなどせざるを得なかったとして、本件確認書等があるからといって原告が横領を認めたものと直ちにいうことはできないとして、会社の請求を棄却しました。

※確定

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