Case264 長時間労働によるうつ病の発症については予見可能性がなかったもののその後の自殺について安全配慮義務違反が認められた事案・奈良県事件・奈良地判令4.5.31
(事案の概要)
本件は、長時間労働の末に自殺した被告奈良県の職員(被災者)の両親が、県に対して損害賠償請求した事案です。
被災者は、平成27年3月から同年4月にかけて、1か月当たり150時間を超える時間外勤務に従事し、その間に13連勤するなどしていました。
被災者は、平成27年4月上旬にはうつ病を発症し、平成29年5月21日に自殺しました。
(判決の要旨)
判決は、被災者は、平成27年3月から4月にかけての過重労働によりうつ病を発症した後、一次的に通院頻度が減少した期間があったものの、恒常的な長時間労働から解放されることはなく、うつ病の状態が改善されないまま、更なる過重業務による心身の負担に晒された結果、自殺するに至ったとしました。
そのうえで、被災者が精神科に通院を要するほどの心身の不調を明確に上司らに訴えたとは認められず、業務の進捗状況にも問題がなかったこと等からすると、被災者がうつ病にり患したことについては、県に国賠法上の違法性や安全配慮義務違反があったとはいえないとしました。
もっとも、平成28年12月の時点では、県は、産業医面談の結果により被災者が長時間の過重労働による疲労の蓄積の結果、精神疾患を発症して治療中であり、医学的知見から長時間の時間外勤務を避けなければならないことを認識し、被災者を長時間の時間外勤務に従事させないための具体的な措置(担当事務の変更や分担事務量の軽減等)を講じるべき安全配慮義務が生じたとし、国賠法上の責任及び民法上の安全配慮義務違反を認めました。
過失相殺又は素因減額の主張は排斥されました。