Case274 シフトを全く入れなくなったアルバイトについて退職の意思表示があったとはいえないとして雇用契約上の地位確認等が認められた事案・リバーサイド事件・東京高判令4.7.7労判1276.21
(事案の概要)
原告労働者は、被告会社が運営する寿司店において期間の定めのないシフト制アルバイトとして勤務していました。
原告は、平成30年12月頃までは週6日程度勤務していましたが、シフトの勤務希望日が減少し、平成31年1月は週4日程度、2月は週3日程度、3月は3日勤務した後、同月13日以降のシフトを提出しませんでした。
会社は、原告が最終出勤日に店長に対して「もう来ない。4月半ば頃に退職する。」旨述べていたなどと主張しました。
4月に、店長が原告に対して3月末で社会保険を停止する旨の連絡をしたところ、原告は「辞めるとは言っていない。今は休むが復帰するつもりである。」旨を述べました。
令和元年7月になって、会社が原告に対して退職日を平成31年3月31日とする退職証明書を交付したことから、原告は8月に労働組合に加入して会社に対して復職等を要求しました。
本件は、原告が会社に対して、合意退職の不成立を主張して、雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。
会社は、控訴審において、新型コロナウイルス感染拡大の影響により営業を縮小しているため、原告を整理解雇すると主張しました。
(判決の要旨)
1 合意退職の成立について
判決は、退職の意思表示は労働者にとって生活の原資となる賃金の源である職を失うという重大な効果をもたらすものであるから、労働者による退職する旨の発言が退職の意思表示であるといえるか否かを判断するに当たっては、当該発言内容のほか、当該発言がされた状況およびその経緯、当該発言後の労働者の言動その他の事情を考慮して、確定的に雇用契約終了の法律効果を生じさせる意思が表示されたといえるか否かを慎重に検討すべきとしました。
そのうえで、最終出勤日に会社の主張するやり取りがあったとしても、原告による退職の意思表示については何ら書面が作成されていないところ、会社による退職の意思の確認も明確には行われておらず、退職時期が判然としない上、原告が店舗の鍵を所持し、私物を店舗に置いたままにしていたこと、4月以降原告が退職の意思表示をしたことを強く否定していることなどから、原告の最終出勤日の言動から、原告が会社に対して確定的な退職の意思表示をしたと認めることは困難であり、黙示の退職の意思表示があったと認めることもできないとし、地位確認を認めました。
2 整理解雇について
会社が、本件店舗や系列店においてアルバイトの新規採用を行っていること、新店舗を開店していることなどからして、人員削減の必要性が認められないとして、整理解雇を無効としました。
3 賃金請求について
原告は令和元年8月になって復職の意思を明確にしましたが、会社としても原告に代わるアルバイトを雇い入れるなどしていたことから、会社が直ちに原告を復職させなかったとしても、会社の責めに帰すべき事由により原告が就労することができなかったとまでは認められないとしました。
もっとも、会社が令和2年3月に本件店舗において新たにアルバイト2名を雇用したことから、同月以降原告を本件店舗で就労させることが可能であったとし、同月以降は原告は会社の責めに帰すべき事由により就労することができなかったとし、賃金請求を認めました。
賃金額については、新型コロナウイルス感染拡大の影響により休業や営業時間短縮を余儀なくされていることなどから、原告がシフトを減らしていた平成30年12月から平成31年3月までの平均労働時間を基準として計算すべきであるとしました。
※上告