Case303 営業社員に貸与していたスマホの回収や監査室への配置転換が違法とされ固定残業代を含む年俸減額が無効とされるなどした事案・インテリムほか事件・東京高判令4.6.29労判1291.5
(事案の概要)
原告労働者は、営業として被告会社に雇用され、年俸960万円(月額職務給(基本給)55万円、住宅手当3万円、みなし手当(固定残業代)22万円)でした。
令和元年5月、原告の職務等級が降格され、年俸は866万4000円とされました(職務給4万円減額、みなし手当3万8000円減額)。
また、令和元年10月、原告は監査室へ異動となり(本件配転)、年俸は780万円とされ(みなし手当7万2000円減額)、その後退職しました。
本件は、原告が会社に対して、度重なる賃金減額の無効を主張して差額賃金の支払いを求めた事案です。
また、①被告代表者Aが、代表者が午後5時頃に送信したメールに原告が翌日午前8時頃の時点で返信していなかったことに憤り、「社長や上司からメールが来たら即レスが当たり前」などとして、原告に貸与していたスマートフォンを回収した行為(本件回収)や、②被告取締役Bが、緊急会議の場において原告に対して「そんなことすら確認できないのであれば、辞めた方がよい」旨を言い放ったこと(本件発言)、③本件配転、④原告が退職余儀なくされたことなどが不法行為に当たるかも争点となりました。
(判決の要旨)
1 賃金減額について
判決は、原告に対する賃金減額は年俸決定権限の濫用であるとして、これらを無効としました。
固定残業代であるみなし手当の減額についても、本件労働契約に係る年俸制の合意の内容はみなし手当もその一部に含めるものであり、みなし手当の減額についても年俸決定権限の行使として適切であって初めて有効になるとし、これを無効としました。
2 スマートフォンの回収について
判決は、使用者が労働者に対しその業務遂行のためにどのような道具を貸与するかは、労働契約において特別の定めをしていない限り、本来、使用者が当該業務の性質や経営状況等に照らして判断することができるものであるとしつつ、もっとも、使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たって、それを濫用することがあってはならない(労働契約法3条5項)のであるから、一旦業務上の必要性があると判断して貸与したものを、後に合理的な目的や必要性もなく取り上げることは違法になる場合があるとしました。
そして、本件回収は、合理的な目的や必要性なく、感情的な理由から権限を濫用して行ったものであり、違法であるとし、会社及び代表者Aに対して慰謝料30万円の支払いを命じました。
3 取締役Bの発言について
判決は、本件発言は、原告が営業担当としてすべきことをしておらず、そのような仕事しかできないのであれば退職した方がよいという趣旨で言ったものと解することができ、緊急会議の場でのこととはいえ、不必要に強い言葉で原告の能力や価値を否定するものであって、原告の人格的利益を侵害したものであるとして、会社及び取締役Bに対して慰謝料30万円の支払いを命じました。
4 本件配転について
判決は、原告が営業の経験を評価されて好待遇で採用されていることや、会社が定める監査担当者の要件のいずれも満たしていないことなどから、原告を営業から監査室へ異動させる業務上の必要性はなかったとして、本件配転を違法として、会社及び代表者Aに対して慰謝料100万円の支払いを命じました。
5 退職を余儀なくされたことについて
判決は、会社及び代表者Aによる度重なる違法行為により原告が退職を余儀なくされたとして、会社及び代表者Aに対して慰謝料60万円の支払いを命じました。
※確定