Case359 内定者に入社前研修を命じる根拠はなく入社前研修への不参加を理由とする内定取消しは違法であるとした事案・宣伝会議事件・東京地判平17.1.28労判890.5
(事案の概要)
原告は、大学院で博士号取得のための研究をしながら被告会社の新卒採用に応募し採用内定を得ました。会社は、原告に対して入社前研修への参加や課題を求めましたが、原告は研究に専念するため入社前研修に一部参加しませんでした。
そうしたところ、会社は、原告に対して、研修への参加が足りていないとして、入社後の試用期間を3か月から6か月に延長するか、中途採用試験を再受験するよう選択を求めました。
原告は、いずれの選択も拒否し、会社から内定取消しされたと主張して会社に対して損害賠償請求しました。
(判決の要旨)
1 内定取消しの有無
判決は、採用内定後、使用者が労働者に対して試用期間延長か中途採用試験の再受験の選択を求めたことは、実質的な意味で内定を取り消す旨の意思表示をしたと認められるとし、内定取消しがあったとしました。
2 内定取消しの違法性
また、使用者が、内定者に対して、本来は入社後に業務として行われるべき入社日前の研修等を業務命令として命ずる根拠はなく、入社日前の研修等は、あくまで使用者からの要請に対する内定者の任意の同意に基づいて実施されるものであり、使用者は、内定者の生活の本拠が労働関係以外の場所に存している以上、これを尊重し、本来入社後に行われるべき研修等によって学業等を阻害してはならず、入社日前の研修等について同意しなかった内定者に対しては、内定取消しはもちろん、不利益な取扱いをすることは許されず、また、いったん参加に同意した内定者が、学業への支障等の合理的な理由に基づき、入社日前の研修等への参加を取りやめる旨申し出たときは、これを免除する信義則上の義務を負っているとして、内定取消しを違法とし、原告が他の職に就くまでの1か月分の被告における給与相当額の逸失利益、50万円の慰謝料を認めました。
※控訴