Case370 通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分を判別できないことから年俸に割増賃金が含まれているとはいえないとした最高裁判例・医療法人社団康心会事件・最判平29.7.7労判1168.49

(事案の概要)

 被告法人と本件雇用契約を締結し、医師として勤務していた原告労働者が残業代請求した事案です。

 本件雇用契約では、賃金は年俸制(総額1700万円)で、内訳は①本給(月86万円)、②諸手当(役付手当3万円、職務手当15万円、調整手当16万1000円)、③賞与とされ、時間外勤務時間に対する給与については法人の時間外規程によるとされていました。

 時間外規程は、時間外手当の対象は病院収入に直接貢献する業務または必要不可欠な緊急業務に限定されるなどと規定していました。そして、時間外規程により支払われる以外の割増賃金は年俸に含まれるとされていました。

 法人は、原告が管理監督者に当たるとも主張しましたが、否定されています。

 なお、原告に対する解雇は有効とされています。

(判決の要旨)

控訴審

 差戻し前の控訴審は、原告と法人との間には、時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされており、当該合意は有効であるとして原告の主張を退けました。

最高裁判決

 判決は、労基法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであるとしました。

 そして、割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり、割増賃金に当たる部分の金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うとしました。

 本件では、原告と法人との間には、時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたものの、原告に支払われていた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできないとして、年俸の支払いにより時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われていたということはできないとし、原判決を取り消し高裁に差し戻しました。

差戻審判決・東京高判平30.2.22労判1181.11

1 割増賃金

 差戻審は、最高裁の判断に従い、法人に割増賃金の支払いを命じました。

2 賃確法の合理的な理由

 判決は、上告審判決が言い渡されるまでは、法人が第1審が認容した金額を超えた部分を争うことについて、賃確法施行規則6条4号の合理的理由があるとして、賃確法の年14.6%

遅延損害金が発生するのは上告審判決言い渡された日の翌日からであるとしました。

※確定

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