Case377 対価性の判断基準を示して業務手当が固定残業代に該当するとした最高裁判例・日本ケミカル事件・最判平30.7.19労判1186.5
(事案の概要)
被告会社が経営する薬局で薬剤師として勤務していた原告労働者が残業代請求した事案です。
本件雇用契約書には、賃金について「月額56万2500円(残業手当含む)」「給与明細書表示(月額給与46万1500円 業務手当10万1000円)」と記載されていました。
また、賃金規程には「業務手当は、一賃金支払い期において時間外労働があったものとみなして、時間外手当の代わりとして支給する」と記載されていました。
さらに、原告以外の従業員との間で作成された確認書には業務手当が時間外労働30時間分に相当すると記載されていました。
本件では、主に業務手当が固定残業代に該当するかが争点となりました。
(判決の要旨)
1審
1審判決は、会社において業務手当を30時間分の時間外手当と認定していることが認められ、そのことは一応原告に説明がされていること、30時間を超過する残業に対しては別途時間外手当によって精算がされていることから、業務手当は固定残業代に該当するとしました。
控訴審判決
控訴審判決は、いわゆる定額残業代の仕組みは、定額以上の残業代の不払の原因となり、長時間労働による労働者の健康状態の悪化の要因ともなるのであって、安易にこれを認めることは、労働関係法令の趣旨を損なうこととなり適切でないとしたうえ、固定残業代は、①定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその発生の事実を労働者が認識して直ちに支払を請求できる仕組みが備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されており、②基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限り有効であるとしました。
そして、原告に時間外労働の月間合計時間や時給単価が誠実に伝えられていないため、業務手当を上回る金額の時間外手当が発生しているかどうかを原告が認識することができなかったなどとして、固定残業代を無効としました。
最高裁判決
最高裁は、控訴審が示した厳しい要件を明確に否定しました。
そして、雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約にかかる契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきとしました。
本件では、会社の賃金体系において業務手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものと位置づけられていたこと、原告に支払われていた業務手当は約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当するものであり、原告の実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではないことから、固定残業代が有効とされました。