Case413 定年後再雇用の嘱託社員に精勤手当を支給しないことが旧労契法20条の不合理な格差に当たるとした最高裁判例・長澤運輸事件・最判平30.6.1労判1179.34
(事案の概要)
原告ら労働者は、定年後再雇用(嘱託社員)で被告会社と有期雇用契約を締結し、定年前に引き続きパラセメントタンク車の乗務員として勤務していました。正社員と嘱託社員で、乗務員の業務内容やその変更の範囲等は変わりませんでした。
しかし、正社員と嘱託社員では下記の労働条件の違いがあったため、原告らはこれらが求労契法20条に違反する不合理な格差であるとして、その差額の損害賠償を求めました。
正社員 | 嘱託社員 | 結論 |
基本給+能率給+職務給 | 基本給+歩合給 | 不合理とはいえない |
精勤手当5000円 | なし | 不合理 |
在宅手当1万円 | なし | 不合理とはいえない |
家族手当、家族1人につき5000円 | なし | 不合理とは言えない |
役付手当(班長3000円、組長1500円) | なし | 不合理とはいえない |
超勤手当(時間外手当)あり | あり(算定基礎に精勤手当が含まれず) | 不合理 |
賞与5か月分 | なし | 不合理とはいえない |
(判決の要旨)
控訴審判決・東京高判平28.11.2労判1144.16
東京高裁は、定年後再雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であるということはできないとしました。
そして、全体として2割前後の賃金減額となることが直ちに不合理であるとはいえないとして、原告らの請求を棄却しました。
最高裁判決
最高裁は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理といえるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきであるとしました。
1 能率給及び職務給
原告らの基本給+歩合給は、正社員の基本給+能率給+職務給と比べ2~12%低いものの、定年後再雇用者は老齢厚生年金の支給を受けることができることなどから、不合理な格差には当たらないとしました。
2 在宅手当及び家族手当
正社員には、嘱託職員と異なり幅広い世代の労働者が存在しており、そのような正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるとして、在宅手当及び家族手当の不支給は不合理な格差にあたらないとしました。
3 役付手当
役付手当については、その支給要件及び内容に照らせば、正社員の中から指定された役付者であることに対して支給されるものであるとして、役付手当の不支給は不合理な格差に当たらないとしました。
4 賞与
賞与については、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含みうるとして、賞与の不支給が不合理な格差に当たらないとしました。
5 精勤手当及び超勤手当
他方で、精勤手当については、正社員と嘱託職員との職務の内容が同一である以上、その皆勤を奨励する必要性に相違はないとして、不合理な格差に当たるとしました。また、超勤手当についても、精勤手当が算定基礎に含まれていない点で不合理な格差に当たるとしました。
※現在は、本件のように職務の内容や変更の範囲が同一である場合には、パート有期法9条によりいかなる格差も許されないと解されています。