Case486 複数の従業員から性格等を非難され職場から排除しようとされたことが違法な退職勧奨に当たるとされた事案・公益財団法人後藤報恩会ほか事件・名古屋高判平30.9.13労判1202.138

(事案の概要)

 原告労働者は、被告法人が運営する美術館で学芸員として勤務していました。

 原告は、美術館の休館日に恩師の訃報に接し、翌日の葬儀に参列したい旨を伝えようとし、美術館に連絡が取れないため人事であり前代表理事の娘である被告従業員Aの携帯電話に3度連絡し繋がらなかったため、美術館のメールアドレス宛に有給休暇の申請をするメールを送信して仕事を休みました(本件出来事)。被告従業員Aは、その後出勤してきた原告に対して無断欠勤であると指摘し、原告と働くのが難しいとか、「信頼関係ゼロ」となった旨述べ始末書の提出を求めました(言動①)。また、被告従業員Aは、別の日に、原告が点検リストを期限前に提出したものの、これがノートに貼付されていなかったことから、原告に対して美術館の職員としてふさわしくない、原告に美術館で任せられる仕事はない、原告にふさわしい仕事は美術館以外の場所にある旨を述べました(言動②)。

 同じく前代表理事の娘である被告従業員Bは、原告が予定されていた有給休暇を取得したことに対して「非常識」と非難し、原告のセンスが信じられず信頼を失った旨述べました(言動③)。また、被告従業員Bは、別の日に、原告に対し「仕事が早くできないのであれば、早く出勤して仕事をかたづけるように言ってあるはずです。努力すべきです。」と発言しました(言動④)。

 被告館長は、本件出来事について、原告に対して「連絡の方法を努力すべきであった」と非難し「そういったのが、私の性格でこれは治らないということならば、たぶん、ここでの仕事は長続きしないだろう」などと発言しました(言動⑤)。また、別の日に、原告に対し、原告の性格では美術館で任せられる仕事はなく、性格を変えられないのであれば辞表を書いて退職することを求める旨を述べました(言動⑥)。

 原告は、退職届を提出し、美術館を退職しました。

 本件は、原告が法人、被告従業員A、被告従業員B及び被告館長に対して、被告らの上記言動が社会的相当性を逸脱した退職勧奨に当たるとして損害賠償請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、被告従業員Aの言動①について、被告従業員Aと原告の地位、立場等に照らし、原告にとっては職場からの排除を示唆されたと感じ得るものであり、退職勧奨の趣旨を含む発言と理解されるものであり、原告を非難し始末書の提出をさせたことは社会的相当性を逸脱したものであるとしました。また、言動②について、職場からの排除を意図するものであり、退職勧奨の趣旨を含むものとし、理由となった原告の行為は強い非難に値するものとまではいえず、このような退職勧奨をすることは社会的相当性を逸脱するものであるとしました。

 次に、被告従業員Bの言動③について、退職勧奨の趣旨を含むものと理解されるものであり、経緯から「非常識」「信頼を失いました」などと非難することは社会的相当性を逸脱するものであるとしました。また、言動④について、原告にとって時間外出勤を求められ、それに応じられないものは勤務を続けるのにふさわしくない旨をいうものと感じ得るものであり、職場からの排除を示唆されたと感じられるものであるとしました。

 そして、被告館長の言動⑤について、館長からも職場からの排除を示唆されたと感じ得るものであり、退職勧奨の趣旨を含むものと理解されるものであるとしました。また、言動⑥について、退職勧奨といわざるを得ず、被告らが問題視する原告の勤務態度等には強い非難に値するものがないことなどにも照らすと、社会的相当性を逸脱するものであるとしました。

 以上から、被告らの上記各言動は、美術館の館長や法人の前代表理事の娘等の地位、立場にある者らが、採用間もない原告に対して、一方的に非があると決めつけ、原告の性格や感覚等を批判し、「非常識」「信頼関係ゼロ」「ここの職員としてふさわしくない」などと非難して職場から排除しようとするものであって、社会的相当性を逸脱する違法な退職勧奨であると認められるとし、被告らの共同不法行為(法人は使用者責任)を認めて慰謝料60万円の支払を命じました。

※確定

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