Case491 女性講師が上司とのキスや性行為に同意していたとはいえないとして上司及び学校に対する損害賠償請求が認められた事案・学校法人A京都校事件・京都地判令元.6.28労判1302.49
(事案の概要)
原告労働者(女性)は、被告法人が運営する高校の常勤講師として勤務していました。
被告分室長は、入職1年程度の原告に対し、度々キスをする、胸を触るなどしました。原告が「やめてください。」と抵抗しても離さなかったり、夏のボーナスを優遇すると言ったり、特別にボーナスを支給したと言ってキスをすることもありました。
被告分室長は、原告と車で挨拶回りをした後、車をラブホテルに乗り入れて、無理やり性行為に及びました。
原告はうつ病、適応障害、不安障害を発症し、休職の末契約期間満了により退職しました。また、原告はPTSD及び解離性障害にり患しました。
本件は、原告が法人及び被告分室長に対して損害賠償請求した事案です。
(判決の要旨)
判決は、被告分室長による原告に対する各セクハラの事実を認め、これらの行為は、いずれも本件学校の分室長の立場にあった被告分室長と、雇用後1年少々の常勤講師であった原告の、立場の違いなどにより、原告が強く拒絶できない状況で、この状況に乗じて原告の意に反して行われたものであるとして、原告の性的事由を侵害する不法行為に該当するとしました。
被告分室長は、一部事実の存在を争ったり、原告の同意のもと抱き合ってキスをしたと主張したりしました。しかし、判決は、原告が恩師や弁護士に相談していたこと、原告と被告分室長は職場以外でのやり取りがほぼなく親密な関係であったとうかがわせる事情がないことなどから、原告主張の事実が認められるとしました。
また、原告は医師に自分が悪かったと話したり、交際相手にセクハラのことを話さなかったりしましたが、判決は、性的被害を受けた場合、逃げたり直接的な抵抗をしたりできるのは被害者のごく一部で、身体的・心理的まひ状態に陥るなどとする被害者が多いこと、性的被害を受けている被害者が、笑っていたり全くの無表情で抵抗をしていないように見えたりする場合があり、原告が自責の念に駆られたり、その他合理的でない行動を執ったとしても、不自然であるとはいえないとしました。また、性的な被害を受けた場合、羞恥心等から、交際相手や夫に対してであっても被害を申告できないことは、格別不自然とまではいえず、被害者の態度が、加害者からみて同意を表すようにみえても、実はそうでないということが十分あり得るとしました。
判決は、原告には幼少期に父親に性暴力を受けたトラウマなどがあったとして4割の素因減額をしたうえ、被告らに対して約600万円の損害賠償を命じました。
※確定