Case495 上司が喫煙者である部下に対して冬の間扇風機を当て続けた行為などが不法行為に該当するとされた事案・日本ファンド(パワハラ)事件・東京地判平22.7.27労判1016.35
(事案の概要)
原告労働者A、B及びCが、事業部長である被告上司から以下のようなパワハラを受けたとして、被告上司及び被告会社に対して損害賠償請求した事案です。
・喫煙者である原告A及びBがたばこ臭いといって、本来扇風機を使わない12月から約半年間、向きを固定して原告A及びBに扇風機の風を当てた(行為①)
・原告Aが自分が提案した業務遂行方法を採用していないことを知って、強い口調で叱責し「今後このようなことがあった場合には、どのような処分を受けても一切異議はございません。」という始末書を提出させた。また、部門会議において原告Aに対して「お前はやる気がない。なんでここでこんなことを言うんだ。明日から来なくていい。」などとどなった(行為➁)。
・原告Bに対して「馬鹿野郎」「給料泥棒」「責任をとれ」などと叱責し、「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした。」という念書を提出させた(行為③)。
・原告Cに対して、背中を殴打したり、叱責しながら足の裏で原告Cの膝を蹴った(行為④)。
・原告Cに対して、原告Cの配偶者について「よくこんな奴(原告C)と結婚したな。もの好きもいるもんだな。」と発言した(行為⑤)。
(判決の要旨)
1 行為①(扇風機の風を当てた行為)
判決は、行為①について、被告上司は喫煙者である原告A及びBに対する嫌がらせの目的をもって、長期間にわたり執拗に原告A及びBの身体に著しい不快感を与え続け、それを受忍することを余儀なくされた原告A及びBに対し、著しく大きな精神的苦痛を与えたとして不法行為に該当するとしました。
2 行為➁(原告Aに対する叱責等)
判決は、被告上司が部下に対し、著しく一方的かつ威圧的な言動を部下に強いることが常態となっており、被告上司の下で働く従業員にとっては、被告上司の言動に強い恐怖心や反発を抱きつつも、被告上司に退職を強要されるかもしれないことを恐れて、それを受忍することを余儀なくされていたとし、このような背景事情に照らせば、行為➁は、社会通念上許される業務上の指導を超えて、原告Aに過重な心理的負担を与えたものとして、不法行為に該当するとしました。
3 行為③(原告Bに対する叱責等)
行為③についても、上記背景事情に照らせば、社会通念上許される業務上の指導を超えて、原告Bに過重な心理的負担を与えたものとして、不法行為に該当するとしました。
4 行為④(原告Cに対する暴行)
行為④について、何ら正当な理由もないまま、その場の怒りにまかせて原告Cの身体を殴打したものであり、不法行為に該当するとしました。
5 行為⑤(原告Cに対する侮辱)
行為⑤について、上記背景事情に照らすと、原告Cにとって自らと配偶者が侮辱されたにもかかわらず何ら反論できないことについて大きな屈辱を感じたものであり、不法行為に該当するとしました。
6 損害等
被告上司及び会社(使用者責任)に対して、原告Aに約96万円(うち慰謝料60万円)、原告Bに慰謝料40万円、原告Cに慰謝料10万円を支払うよう命じました。
※確定