Case500 カルテの記載は信用性が高いとして上司による侮辱的な叱責や休職を妨害する言動を認定し不法行為の成立を認めた事案・サントリーホールディングスほか事件・東京高判平27.1.28

(事案の概要)

 原告労働者は、被告上司から繰り返し厳しい注意指導を受け、うつ病にり患して精神科を受診しました。原告は、医師に対して、被告上司から「新入社員以下だ。もう任せられない。」などと言われたこと、被告上司は誰にでも「何で分からない。おまえは馬鹿」と言う人物であることを話し、そのことがカルテに記載されました。

 原告は、3か月の療養を要する旨のうつ病の診断書を被告上司に提出して休職を申し出ましたが、被告上司は、3か月の療養については有給休暇で消化してほしい、原告が隣の部署に異動する予定であるが3か月の休みを取るならば異動の話は白紙に戻さざるを得ず被告上司の下で仕事を続けることになるなどと告げました。原告は、このことも医師に話し、そのことがカルテに記載されました。

 原告は、異動を希望していたため、休職を断念しました。

 その後、原告の通報によりハラスメント調査が行われ、当時の被告上司の原告に対する指導が、行き過ぎた指導であったと証言する社員がいました。

 本件は、原告が会社及び被告上司に対して損害賠償請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、医師に話した内容は訴訟提起を前提としないもので信用性が高いこと、ハラスメント調査で行き過ぎた指導があったと証言する社員がいたことから、少なくとも被告上司が原告に対して「新入社員以下だ。もう任せられない。」「何で分からない。おまえは馬鹿」又はこれに類する発言をしたことを認めました。そして、前者の発言は原告に対して屈辱を与え心理的負担を過度に加えるもので、後者の発言は原告の名誉感情をいたずらに害する行為でものであり、これらの被告上司の言動は、原告に対する注意又は指導のための言動として許容される限度を超え、相当性を欠くものであったとして不法行為を構成するとしました。

 また、カルテの記載から、被告上司が、3か月の療養については有給休暇で消化してほしい、原告が隣の部署に異動する予定であるが3か月の休みを取るならば異動の話は白紙に戻さざるを得ず被告上司の下で仕事を続けることになるなどと告げたことを認定し、被告上司の上記言動は、原告がうつ病にり患したことを認識したにもかかわらず、原告の休職の申出を阻害する結果を生じさせるものであって、原告の上司の立場にある者として、部下である原告の心身に対する配慮を欠く言動として不法行為を構成するとしました。

 以上により、判決は会社(使用者責任)及び被告上司に対して、慰謝料150万円の支払いを命じました。

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