Case504 業務に起因する精神疾患を発症した状況で送信された上司及び取引先に対するメールを理由とする降格処分が無効とされた事案・セントラルインターナショナル事件・東京高判令4.9.22労判1304.52
(事案の概要)
原告労働者の上司であるA部長は、昼前に出勤することや早い時間に退社することが多かったため、原告は、A部長の勤務態度についてA部長や専務に抗議するなどしていました。
しかし、特別改善等が見受けられず、A部長と原告との関係は悪化し、原告は、平成27年12月頃から、嘔吐、下痢、胃痛等の症状が出現し、A部長に対して人間不信を通り越して怒りで一杯の状態となりました。
会社は、平成28年5月、原告に対して、次長職を解き、営業職から事務職に配置転換し、給与を35万円から28万円とすることを通知し、同意書に捺印することを要求しました(第1降格処分)。原告が弁護士を通して抗議したところ、第1降格処分は撤回されました。
会社は、平成28年7月、原告に対して、10件の懲戒理由があるとして、次長職から解き、始末書の提出を命じる旨の懲戒処分を行いました(第2降格処分)。これに伴い原告の賃金は28万円に減額されました。
本件は、原告が会社に対して第2降格処分の無効を主張して差額賃金の支払いを求めるとともに、損害賠償請求した事案です。
なお、会社は平成29年1月に原告を解雇しましたが、労働審判を経て原告は会社に復職しています。
(判決の要旨)
1 降格処分の効力
判決は、懲戒理由のうち、平成27年12月に原告がA部長に対して「都合よくしゃしゃり出てきて、肝心のクレーム処理の時だけ、人任せにするのは、人間的に最低です。」「ご自分の保身のためだけに、お仕事をされるんですね。」とのメールを送信したこと、取引先をCCに入れてA部長に対して「こういうことになるんです。何も状況がわからず、散らかすの辞めてください。」とのメールを送信したことは懲戒事由に該当するとしました。
しかし、平成27年12月頃には、原告は業務に起因して遷延性抑うつ反応を発病していたところ、原告はA部長の業務執行のあり方に不満を抱いており、業務の改善を繰り返し要望するなどしたが、会社による十分な対応がされた事実はなく、この対応の不備等が要因となって原告の遷延性抑うつ反応が引き起こされたと認められ、A部長や専務もこれを認識しまたは認識し得る状況にあったとして、第2降格処分は重きに失し、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、懲戒権を濫用したものとして無効であるとしました。
そして、給与の減額も無効とし、差額賃金の請求を認めました。
2 損害賠償請求
判決は、A部長の業務執行のあり方、原告の業務上の要望に対するA部長や専務の対応の不備等が要因となって原告の遷延性抑うつ反応が引き起こされたとしました。
そして、会社は、原告の業務内容等を改善するために具体的な対策を講じ、原告の精神疾患発症を防止する注意義務(安全配慮義務)に違反したとして、通院慰謝料210万円を認めました。
※確定