Case515 出勤簿ではなく労働者作成のノートによって実労働時間を認定し変形労働時間制を無効とした事案・エイチピーデイコーポレーション事件・那覇地沖縄支判令4.4.21労判1306.69

(事案の概要)

 本件は、被告会社が経営する本件ホテルの従業員であった原告労働者が残業代請求をした事案です。

 本件ホテルでは、タイムカード等による客観的な労働時間管理はされておらず、出勤簿の作成により労働時間管理がなされていました。原告は、出勤簿に代えて、日々自身の出勤・退勤時刻等を本件ノートに記していました。

 また、会社は、時期により1か月単位の変形労働時間制及び1年単位の変形労働時間制を採用していたと主張しました。

(判決の要旨)

1 実労働時間

 判決は、原告の出勤簿には原告以外の者によって記入された形跡があることや、本件ホテルでは残業報告書について上司から時間数を削減するよう訂正を強いられることがあったこと、残業申請書を上司が作成する部署もあったことなどを指摘し、出勤簿の体裁、記載内容自体の不自然性や、その記載なようが他の原告の稼働状況を示す証拠と整合しないこと、証拠提出の経緯等に照らすと、出勤簿が原告の労働時間の実態を反映したものといえるかについては相当疑問があるとしました。

 他方で、本件ノートは、「お勘定書」や「インプットジャーナル」等に記載された操作時間等と整合していたことから、判決は、本件ノートはその成立に原告しかかかわっておらず証拠の体裁等においても類型的に信用性が高いものとはいえないものの、その記載内容が他の客観証拠により一応は裏付けられていると評価できることや当時の勤務実態に照らし不自然ともいえないこと等からすると、実労働時間の認定資料として使用し得るものといえるとし、本件ノートの記載により原告の実労働時間を認定しました。

2 変形労働時間制

⑴ 1か月単位の変形労働時間制

 判決は、会社の就業規則には、各直勤務の始業・終業時刻及び各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続や周知方法に関する定めは見当たらないから、変形期間における各週、各日の所定労働時間の特定を欠いているとして、1か月単位の変形労働時間制を無効としました。

⑵ 1年単位の変形労働時間制

 1年単位の変形労働時間制にかかる労使協定に署名押印した過半数代表者は、各セクションから選出された代表者のみが出席する会合において選出されていたところ、判決は、そのような手続が許されないものではないものの、過半数代表者を選出する際には、従業員全員に対して選出される者が過半数代表者として労使協定を締結することの適否を判断する機会が与えられている必要があるところ、各セクションから代表者を選出するに当たって、所属する従業員に対して、労使協定を締結する代表者を選出する旨も明らかにされていなかったことから、過半数代表者の選出手続が違法であるとして、1年単位の変形労働時間制を無効としました。

※確定

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