【解雇事件マニュアル】Q25労基法上の業務上災害による療養者の解雇制限とは
(労基法19条)
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、労働者を解雇してはならない(労基法19条1項本文)。これに違反する解雇は無効である。当該規定の趣旨は、業務上の負傷による療養のための休業期間という再就職困難期において失職することにより労働者の生活が脅かされることのないよう、再就職の可能性が回復するまでの間、解雇を一般的に禁止して労働者を保護することにあるものと解されている(名古屋埠頭事件・名古屋地判平2.4.27労判576号62頁)。
「療養」とは、労基法75条及び労災保険法上の療養補償・休業補償の対象となる療養と同義であり、治ゆ(症状固定)後の通院等は含まない。業務上の傷病を理由に労働者が休業している場合であっても、療養のために休業する必要性が認められなければ、本条によって解雇が制限される休業期間には当たらない(厚労省『労基法上』287頁)。業務上の骨折等が外科的には治ゆと判断され、障害補償も行われた後、さらに理学的治療を受けている事例について「障害補償は業務上の負傷、疾病がなおったとき、身体に障害が存する場合においてその障害程度に応じて支給されるものであり、障害補償が行われた後、外科後の処置として保健施設における療養期間中は、療養のための休業期間でないから障害補償支給事由確定の日から30日以後は法第19条の問題は生じない。」とした解釈例規がある(昭25.4.21基収1133号)。光洋運輸事件・名古屋地判平元.7.28労判567号64頁、前掲名古屋埠頭事件、業務上の負傷による疾病が症状固定の状態に至った場合には、労基法19条1項の適用はないとした。
「業務上」といえるためには、当該労働者の業務と負傷等の結果との間に、当該業務に内在または随伴する危険が現実化したと認められるような相当因果関係が肯定される必要がある(地公災基金東京都支部長(町田高校)事件・最三小判平8.1.23労判687号16頁)。
「業務上」とは、当該使用者の業務により負傷等した場合をいい、他の使用者の業務により負傷等した場合は、本条の業務上とはならないと解されている(厚労省『労基法上』287頁)。
業務上の傷病により治療中であっても、そのために休業しないで出勤している場合は解雇制限を受けない(昭24.4.12基収1134号)。
うつ病による休職期間満了を理由とする解雇について、当該うつ病が業務に起因するものと認められ、本条により無効とされた裁判例として、東芝(うつ病・解雇)事件・東京高判平23.2.23労判1022号5頁がある。
なお、本条により禁止されるのは、休業期間及びその後30日間の解雇であって、当該期間経過後の解雇を予告をすることは禁止されていないと解されている(菅野ら『労働法』741~742頁、水戸地龍ヶ崎支判昭55.1.18労民31巻1号14頁)。