【解雇事件マニュアル】Q42労働施策総合推進法によるパワハラに関する相談や援助及び調停の申請を理由とする解雇の禁止とは
1 パワハラに関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等(労働施策総合推進法30条の2)
(労働施策総合推進法30条の2)
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3~6 略
労働施策総合推進法30条の2第1項は、使用者は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、等がい労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとしている。「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号、以下「パワハラ防止指針」という。)の1は、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」を「職場におけるパワーハラスメント」の定義としている。
パワハラ指針の4は、事業主が雇用管理上講ずべき措置として以下の項目を挙げている。これらは、企業規模を問わず必ず講じなければならない。
⑴ 事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
① 職場におけるパワハラの内容および職場におけるパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
② 職場におけるパワハラに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針および対処の内容を就業規則その他の職場における職務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
⑵ 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
① 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
② ⑵①の相談窓口担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談窓口においては、被害を受けた労働者が委縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるパワハラが現実に生じている場合だけでなく、その発生の恐れがある場合や、職場におけるパワハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること
⑶ 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
① 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
② ⑶①により、職場におけるパワハラが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
③ ⑶①により、職場におけるパワハラが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと
④ 改めて職場におけるパワハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること
⑷ ⑴~⑶までの措置と併せて講ずべき措置
① 職場におけるパワハラに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応または当該パワハラに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。
② 労働施策総合推進法30条の2第2項、同30条の5第2項および同30条の6第2項の規定を踏まえ、労働者が職場におけるパワハラに関し相談をしたこともしくは事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求めもしくは調停の申請を行ったことまたは調停の出頭の求めに応じたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
そして、労働施策総合推進法30条の2第2項は、使用者は、労働者が上記の相談を行つたこと又は使用者による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとしている。
「理由として」とは、労働者がパワハラに関する相談を行ったことや使用者の相談対応に協力して事実を述べたことが、使用者が当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことと因果関係があることをいう(『実務コンメ均等法等』341頁)。
均等法11条2項と同様、解雇が、労働者がパワハラに関する相談を行ったことや使用者の相談対応に協力して事実を述べたことを契機として行われたと認められる場合には、原則として労働施策総合推進法30条の2第2項の禁止する解雇に当たるものと解され、違法・無効もしくは不法行為に該当し損害賠償の対象となり得るだろう。
2 都道府県労働局長による紛争の解決の援助(労働施策総合推進法30条の5)
(労働施策総合推進法30条の4)
第三十条の二第一項及び第二項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第四条、第五条及び第十二条から第十九条までの規定は適用せず、次条から第三十条の八までに定めるところによる。
(労働施策総合推進法30条の5)
都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。 2 第三十条の二第二項の規定は、労働者が前項の援助を求めた場合について準用する。
労働施策総合推進法30条の5第1項は、同法30条の4が定める一定の紛争(職場におけるパワハラに関する紛争)について、都道府県労働局長は、当該紛争の当事者からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができるとしている。
そして、同法30条の5第2項は、同法30条の2第2項を準用し、使用者は、労働者が同法30条の5第1項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとしている。
均等法11条2項と同様、解雇が、労働者が労働施策総合推進法30条の5第1項の援助を求めたことを契機として行われたと認められる場合には、原則として同条2項の禁止する解雇に当たるものと解され、違法・無効もしくは不法行為に該当し損害賠償の対象となり得るだろう。
3 紛争調整委員会による調停(労働施策総合推進法30条の6)
(労働施策総合推進法30条の6)
都道府県労働局長は、第三十条の四に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。
2 第三十条の二第二項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。
労働施策総合推進法30条の6第1項は、同法30条の4が定める一定の紛争(職場におけるパワハラに関する紛争)について、都道府県労働局長は、当該紛争の当事者から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認められるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律6条1項の紛争調整委員会に調停を行わせるとしている。
そして、労働施策総合推進法30条の6第2項は、同法30条の2第2項を準用し、使用者は、労働者が同法30条の6第1項の調停の申請をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとしている。
均等法11条2項と同様、解雇が、労働者が労働施策総合推進法30条の6第1項の調停の申請をしたことを契機として行われたと認められる場合には、原則として同条2項の禁止する解雇に当たるものと解され、違法・無効もしくは不法行為に該当し損害賠償の対象となり得るだろう。