Case539 上司が市の職員同士の交際に不当に介入したことが国賠法上違法とされた事案・豊前市(パワハラ)事件・福岡高判平25.7.30
(事案の概要)
離婚歴があり独身であった原告労働者は、平成20年4月に被告豊前市の同じ課で働く女性Aと交際を開始しました。Aは同年7月に別の課に異動になりました。
同月、原告はB課長に呼び出され、市民から「Aと男性が、市営団地の建物の前で抱き合うなどしていた。」という市民からの通報があったとして、事情を聴かれました。その際、B課長は原告に対して「入社して右も左も分からない子を捕まえて、だまして。お前は一度失敗しているから悪く言われるんだ。うわさになって、美人でもなくスタイルもよくないAが結婚できなくなったらどうするんだ。」と言いました。原告は、抱き合うなどの事実を否定しましたが、B課長は「通報者がうそを言っているのか。お前がうそを言っている。」と決めつけました。
平成21年8月、B課長はAを呼び出して、Aに対して「あいつ(原告)は危険人物だぞ。これまでもたくさんの女を泣かせてきた。豊前市のドン・ファンだ。(Aを)異動させたのもそのせいだ。」「向こうの親は原告とAの交際を知っているのか。」「もっと他に友達を作って何でも相談するようにしなさい。自分を飲みに誘ってくれてもいい。」などと言いました。
Aから話を聴いた原告は、B課長にAを呼び出さないよう抗議しました。そうしたところ、B課長は、控訴人に対して「お前は何様のつもりだ。呼ぶなとはどういうことか。お前が離婚したのは、元嫁の妹に手を出したからだろうが。一度失敗したやつが幸せになれると思うな。親子くらいの年の差があるのに常識を考えろ。お前俺をなめているのか。俺が野に下ったら、お前なんか仕事がまともにできると思うなよ。」などと言いました。
本件は、原告がB課長からパワハラを受けたとして、豊前市に対して国家賠償請求した事案です。
(判決の要旨)
判決は、面談においてB課長に故意または過失による職務上の義務違反が認められる場合、豊前市は原告に対し国賠法1条1項により賠償責任を負うとしました。
そして、原告とAはいずれも成年に達している者であるから、その交際は原告らの自主的な判断に委ねるべきものであり、その過程で原告あるいは原告の職場への悪影響が生じこれを是正する必要がある場合を除き、B課長としては、各面談において上記交際に介入するごとき言動を避けるべき職務上の義務があるところ、上記悪影響が生じていたとは認められず、そうすると、各面談におけるB課長の言動は、いずれも、上記義務に反する原告に対する誹謗中傷、名誉毀損あるいは私生活に対する不当な介入であって国賠法上違法であり、B課長による原告の人格権侵害であるとし、豊前市に対して慰謝料30万円の支払を命じました。