Case545 使用者には労災支給決定に対する取消訴訟の原告適格がないとした最高裁判例・国・札幌中央労基署長(一般財団法人あんしん財団)事件・最判令6.7.4労判1315.5
(事案の概要)
使用者である原告法人が、被告国に対して、札幌中央労基署がした労災支給決定の取消しを求めた取消訴訟です。
そもそも使用者が労災支給決定に対する取消訴訟の原告適格を有するかが争点となりました。
法人は、労災保険制度において、事業場の労働災害の多寡に応じて、労災保険料が増減されるメリット制が設けられていることから、労災支給決定を争う「法律上の利益」(行訴法9条1項)を有すると主張しました。
(判決の要旨)
一審判決
一審判決は、使用者は労災支給決定に対する取消訴訟の原告適格がないとして、法人の訴えを却下しました。
控訴審判決
控訴審判決は、使用者は自らの事業に係る業務災害支給処分がされた場合、同処分の法的効果により労働保険料の納付義務の範囲が増大して直接具体的な不利益を被るおそれがある者であるから、同処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)として、同処分の取消訴訟の原告適格を有するとして、法人の原告適格を認め、一審判決を取り消して事件を地裁に差し戻しました。
最高裁判決
最高裁は、行訴法9条1項の「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうことを確認しました。
そして、支給された労災保険給付のうち客観的に支給要件を満たさないものの額は、特定事業主の納付すべき労働保険料額を決定する際の基礎とはならず、特定事業主についてなされた労災支給処分に基づく労災保険給付の額が当然に労災保険料額の決定に影響を及ぼすものではないから、特定事業主は「法律上の利益を有する者」に当たらず、労災支給処分の取消しを求める原告適格を有しないとして、原判決を破棄しました。
最高裁は、特定事業主は、保険料認定処分についての不服申立てや取消訴訟において、労災給付が支給要件を満たさないことを主張して争えばよいとしました。