Case574 ホステスの労働者性を認め罰金、厚生費及び仮受金名目の賃金控除を無効とした事案・第三相互事件・東京地判平22.3.9労判1010.65

(事案の概要)

 本件は、本件クラブでホステスとして働いていた本件労働者が、本件クラブを運営する本件会社に対して、本件入店契約が労働契約に当たるとして未払賃金の支払を求めた事案です。

 会社の就業規則には、以下の罰金条項があり、これらに基づいて本件労働者の給与が控除されていました。

 ①遅刻、②無断欠勤、③月曜日又は金曜日の欠勤、④月4日以上の欠勤、⑤勤務時間中の外出、⑥ミーティングの欠勤、⑦ミーティングの遅刻、⑧パーティー期間中の欠勤及び無断欠勤、⑨強制日の欠勤、⑩ファッションデーの欠勤、⑪早退、⑫入金ペナルティ

また、会社は、就業規則に記載のない、強制日に客を呼べなかった場合の罰金及び売上のノルマ未達成に対する罰金をホステスの報酬から控除していました。

さらに、会社は、厚生費や仮受金の名目で賃金を控除していました。

(判決の要旨)

1 労働者性

 判決は、以下の事実を認定し、本件労働者は、会社により、出退勤時間を厳格に規制され、罰金という制裁を背景とする強い拘束力をもった指示を受けて本件クラブをみだりに離れることなく、その監督の下で勤務していたものであって、これらの指示に対する諾否の自由はなく、その就業内容も代替性が高かった〔筆者注:低かったの誤りであると思われます。〕といえるとしました。

 ・労働者は、本件入店契約に基づき、就業時間中及びその他の時間中においても、正当な理由なく会社の指示に従わなければ、会社に対し、直ちに貸付金等の債務を弁済しなければならないとされていた。

 ・就業規則では、本件労働者を含む会社のホステスは、会社が定めた出勤時間までに店に出勤しなければ基本的に15分ごとに給料の10パーセント分の罰金が課せられていたほか、会社が定めた退勤時間前に早退した場合も、15分ごとに給料の10パーセント分の罰金が課せられ、また、客の送迎のためであっても、店を15分以上離れると15分ごとに給料の10パーセント分の罰金が課せられていた。

 ・会社は本件労働者に対し、タイムカードで出勤時刻を把握し、また、退勤時刻を過ぎても客が店に残っている限り帰ることを許さなかったこと、出勤前に電話で当日の予定や同伴の有無を確認し、場合によっては客との同伴を指示していたこと、本件クラブに出勤する前に美容院に行くように指示し、美容院に行ってもその出来に満足できないときは再度美容院に行くよう命じていたこと、強制日やファッションデー等の必ず出勤する日を定め、また店に客を連れてくるように求めていたこと、勤務中の接客態様も細かく指導していたこと、本件労働者には自己の固定客がいたものの、本件労働者が本件クラブで接客する客の3分の2はそれ以外の客であり、会社の指示に従い、他のホステスや会社の客を接待すること(いわゆる「ヘルプ」的な就業状態であること)が多かったことが認められる。

 さらに、判決は、会社は税務申告において本件労働者を個人事業主として扱っていたが、その一方、本件労働者に対し、社員番号を付けて管理し、「給与」明細書を発行するなど、従業員として扱うところもあることが認められるし、また、本件入店契約において、年間240日の出勤日数において各月50万円という純売上高を達成することを条件としてはいるものの、この条件は本件労働者にとって容易に達成できた条件であり、これを前提として出勤日あたり6万円の「保証」という固定額の報酬が保証されていることから、本件労働者の報酬は、労働の対償としての性質を有する部分があることは否定できず、他方、個人事業主として税務申告していることを労働者性の判断において重視することは必ずしも相当でないとしました。

 判決は、そうすると、ホステス一般について労働者といえるかどうかはともかく、少なくとも本件労働者については、業務従事の指示等に対する諾否の自由がなく、業務遂行上の指揮監督を受け、勤務場所及び勤務時間について強い拘束を受け、代替性の高い労務提供態様であるし、報酬が純売上高と連動しているけれども、一定程度の固定額が保障されていたことからすると、その就業実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価できるから、労働基準法上の「労働者」に該当するというのが相当であり、かつ、本件入店契約は労働契約(雇用契約)の実質を有するものと解するのが相当であるとしました。

2 賃金控除

⑴ 罰金について

 判決は、罰金規定のうち、②(無断欠勤)、③(月曜日又は金曜日の欠勤)、⑧の一部(パーティー期間中の欠勤)、⑨(強制日の欠勤)、⑩(ファッションデーの欠勤)については、会社は、これらの罰金条項により、各月の出勤日数に同月の保証額を乗じて算出された金額から欠勤日に保証額を乗じた金額を控除している(例えば、10日出勤し、10日欠勤した月は、10日分の報酬が支払われるのではなく、報酬が支払われないことになる。)ことから、前記罰金条項は、いずれも欠勤を理由として欠勤の日数分の保証額(又はその半額)を減額するという内容であるが、不就労日分の報酬(賃金)を支払わないということではなく、本件入店契約に定める年間240日の出勤確保又は繁忙日、パーティー期間、強制日及びファッションデーにおける出勤指示違反に対する制裁という意味合いをもち、これらの条項に基づく罰金控除は懲戒処分としての減給であるというのが相当であって、労働基準法91条に反しない限度で有効であるにすぎず、月ごとの控除額の総額が月額報酬額の10分の1を超えた部分は違法であるというのが相当であるとしました。

 また、①(遅刻)、④(月4日以上の欠勤)、⑤(勤務時間中の外出)、⑥(ミーティングの欠勤)、⑦(ミーティングの遅刻)、⑧の一部(パーティー期間中の無断欠勤)、⑪(早退)は、いずれもホステスの秩序を乱した不誠実な勤務態度に対する制裁を定めたものであり、これらの条項に基づく罰金控除も懲戒処分としての減給であるというのが相当であるから、労働基準法91条に反しない限度で有効であるにすぎず、月ごとの控除額の総額が月額報酬額の10分の1を超えた部分は違法であるというのが相当であるとしました。

 さらに、⑫(入金ペナルティ)は、単に懲戒処分というだけではなく、売掛金保証特約の債務不履行責任を過度に重くするものであり、賠償額の予定とすらいい得るものであるから、公序良俗(民法90条)に反し無効であり、これに基づく罰金控除は、労働基準法24条に反し、(全額)違法であるというのが相当であるとしました。

 強制日に客を呼べなかった場合の罰金及び売上のノルマ未達成に対する罰金の控除については、これらの罰金控除も前記の罰金条項による控除と同様、懲戒処分としての減給であるというのが相当であるところ、これらの控除は各月の月間予定表に記載されているものの、その予定表は就業規則の一部を構成するものではないことが認められ、そうすると、いずれの罰金控除も就業規則に根拠を有しない懲戒処分であるというほかないが、労働者に対する懲戒権は就業規則にあらかじめ懲戒事由及び手段を明記しているのでなければ行使できないと解されるから、この2つの罰金控除は、労基法24条に反し、全額違法であるとしました。

⑵ 厚生費及び仮受金について

 判決は、厚生費名目の控除は、根拠不明の不合理な控除であり、本件労働者がこの控除に(黙示に)同意していたとしても、その同意が本件労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえないから、労基法24条に反し、全額違法であるとしました。

 また、仮受金の控除は、将来的には売掛金あるいは貸金の弁済金に充当する目的のものであったとしても、当面は会社が回収不能の危険を担保するために支払を留保したにすぎない金員であったといえるところ、そのような留保は労基法24条に反するものであり、また本件労働者の同意に基づくものともいえず、労基法24条に反し全額違法であるとしました。

※控訴

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