【使用者からの請求】Case605 使用者が労働者に経費の不正利用を理由に強制的に書かせた弁済同意書の効力が否定された事案・ユーアイ警備保障事件・秋田地判令2.6.25労判1325.65

経費の不正利用を理由に、刑事告訴をちらつかされて書かされた弁済同意書の効力を争うことはできるのでしょうか。

【事案の概要】

原告会社が被告労働者を訴え、これに対して労働者が反訴した事案です。

(本訴事件)

原告会社の営業職であった被告労働者は、業務に自家用車を使用する車両借上制度を利用し、会社から支給された給油カードを使用していました。

2018年1月、労働者が給油カードを私的に不正利用していたことが発覚し、同年2月、会社は労働者に対し、横領罪での刑事告発及び懲戒解雇の可能性を示唆しつつ、自己都合退職にすることと引き換えに労働者が会社計算の不正利用額約100万円を会社に弁済する旨の同意書に署名押印させました。労働者が同意書の内容に異議を唱えたため、会社は労働者を懲戒解雇しました。会社は弁済同意書に基づいて未払残高約90万円の支払いを求め本訴を提起しました。

(反訴事件)

これに対し、労働者は、未払時間外手当約80万円および退職金約13万円の支払いを求め反訴を提起しました。

【判決の要旨】

(本訴事件)

裁判所は、車両借上精度を運用するに当たっては、使用者には、雇用契約に付随する義務として、営業職が業務のために自家用車を走行させた距離数を適切に管理、把握したうえで、当該営業職が給油カードにより給油した給油量がその把握した走行距離数と大きく矛盾しないかを定期的に確認する義務があり、営業職が私的利用分のガソリンを給油カードにより給油しているのではないかとの疑いが生じた場合において、これを理由に当該営業職に対して懲戒その他の処分を課するには、上記の疑いが生じたことおよびその理由を当該従業員に告知し、一定の準備期間を与えて弁解の機会を付与したうえで、当該不正使用の有無およびその範囲を適切に判断し、それに応じて処分の要否および内容等を決定すべき注意義務があるというべきであるとしました。

そして、弁済同意書について、会社が長期間にわたりガソリン使用量の管理を怠っており、不正給油量の判断が不合理であること、及び労働者に対し十分な説明や弁解の機会を与えず、刑事告発を示唆して事実上強制して同意させたことを理由に、その事実上の強制力に照らし、労働者に対する使用者の行為として明らかに行き過ぎであり、社会的相当性を逸脱する行為であるとしました。そして、公序良俗に反し、権利の濫用として無効であるとし、会社の請求を棄却しました。

(反訴事件)

労働者の未払時間外手当請求については、約60万円の未払いを認め、付加金の支払いも命じました。

退職金請求については、従業員に給油カードの私的利用という服務規律違反があったことは認めつつも、会社による懲戒解雇処分が、無効な弁済同意書を前提としたものであり、解雇権の濫用として違法であると判断しました。そして、適法な解雇がされていないにもかかわらず、懲戒解雇事由のある退職であるから退職金を支給しないと主張することは、雇用契約関係における信義則に反し許されないとして、退職金の支払いを会社に命じました。

※確定

Follow me!