【過労自殺】Case617 先輩社員らによる頻繁な叱責行為等による自殺について会社と先輩社員らの責任が認められた事案・乙山青果ほか事件・名古屋高判平29.11.30労判1175.26

【事案の概要】

被告Y1社に雇用されていた労働者Aが、うつ病を発症して自殺した事案です。

Aの両親である原告Xらは、Y1社の先輩従業員(被告Y2およびY3)によるパワー・ハラスメントと、Y1社がその事態を放置したこと、さらに十分な引き継ぎがないまま行われた配置転換によってAに過重な業務を担当させたことの結果、Aのうつ病が悪化し、自殺に至ったとして、被告らに損害賠償請求しました。

Aは、平成21年にY1社に入社し、経理事務に従事していましたが、多くの入力ミスをしていました。平成24年4月、Aは営業事務に配置転換(本件配置転換)されましたが、配置転換後の主な業務は入力作業であり、十分な引継ぎもないまま、Aは入力ミスを繰り返していました。

Aは配置転換後、残業時間が増加し(月最大約67時間)、Y2およびY3から頻繁で厳しい叱責を受けていました。Y3からは「てめえ」「あんた、同じミスばかりして」などの発言もありました。Aは、朝起きられなくなる、食欲がなくなる、身だしなみを気にしなくなる、SNSの投稿数が激減するなど、精神状態の悪化を示す兆候が見られ、平成24年6月に自殺しました。Aの母親は、AがいじめられているとY1社に申し入れていました。

【判決の要旨】

⑴ Y3の責任

裁判所は、Y3のAに対する叱責の態様及び叱責の際のY3の心理状態に加え、Aが高等学校卒業直後にY1社へ入社したこと、及び平成24年4月以降、Aが同月に引き継いで間もない新しい業務に従事していたことに鑑みると、Y3がAに対して、継続的かつ頻回に、叱責等を行ったことは、Aに対し、一方的に威圧感や恐怖心を与えるものであったといえるから、社会通念上許容される業務上の範囲を超えてAに精神的苦痛を与えるもので、不法行為に該当するとし、Y3に合計110万円の賠償を命じました。

⑵ Y2の責任

裁判所は、Y2の叱責行為についても、Y3と同様不法行為に該当するとし、Y2に合計55万円の賠償を命じました。

⑶ Y1社の責任

 裁判所は、Y1社にはY2及びY3による業務上の指導の範囲を超える叱責行為を制止ないし改善するように注意・指導すべき義務があったとしました。また、Y1社には、本件配置転換後の業務におけるAの業務の負担や遂行状況を把握し、場合によっては、Aの業務内容や業務分配の見直しや増員を実施すべき義務があったとしました。

そして、Y1社のこれらの注意義務違反と、Aがうつ病を発症・悪化させ自殺に至ったこととの間に相当因果関係があると認め、Y1社に合計約5500万円の賠償を命じました。

※上告受理申立

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