【不当解雇】Case619 懲戒目的の配転命令が不当な動機・目的によるものとして無効とされ配転命令拒否を理由とする解雇も無効とされた事案・天翔物産福岡事件・福岡高判令5.2.21労判1334.78
【事案の概要】
原告労働者Xは、飲食店経営等を業とする被告Y社入社し、異動を繰り返していたところ、平成30年10月、宮城県新名取店の店長Jから顔面を平手打ちされるなどの暴行(本件暴行)を受け、両者間で喧嘩が発生しました。Y社は11月、Jに対し停職4日間、Xに対し秋田店への出勤を命ずる配転命令(本件配転命令)を行いました。Y社は、本件配転命令は業務上の必要性(関係悪化による再発防止、秋田店の調理師補充)に基づくものだと主張しました。Xはこれに不満を持ち拒否する言動を示しましたが、11月下旬には12月から秋田店で勤務することに応じるとしながら、長期の有給休暇を申請しました。
Y社は、Xが本件配転命令を正当な理由なく拒否したこと、協調性が著しく欠如していることなどを理由に11月末付けでXを解雇(本件解雇)しました。
本件は、XがY社に対して、本件解雇の無効を主張し、未払賃金の支払い等を求めた事案です。
【判決の要旨】
1 配転命令の有効性及び解雇の有効性
判決は、本件配転命令には業務上の必要性が認められるとしながら、本件配転命令は、業務の必要性と同時に、Xに対する懲戒目的でされたことが推認され、懲戒目的で配転命令を行うことは、制裁について種類を定めている本件就業規則の趣旨を潜脱するものであり、不当な動機・目的があったものと評価せざるを得ないとし、権利の濫用により無効であるとしました。
したがって、本件配転命令を拒否したことは解雇事由には該当しないとしました。
また、Xの無断欠勤や協調性の欠如を理由とする解雇事由についても、本件配転命令が無効であること等に照らして、解雇事由には該当しないとし、解雇を無効としました。
2 使用者責任
店長JによるXへの暴行(顔面平手打ち、胸を拳で叩く)は不法行為に該当し、業務に関する話を契機として職場内で行われたものであるため、被告Y社は民法715条1項に基づく使用者責任を免れないとし、慰謝料として3万円の支払いが命じられました。
3 未払割増賃金
Y社の主張する固定時間外手当(2万6684円)は、実態として時間外労働等に対する対価として支払われているものとは認められず、労基法37条所定の割増賃金の支払として有効であるとはいえないとされ、Xの残業代請求が認められました。
※上告棄却・不受理により確定