【労災】Case648 工事現場の転落事故について雇用主だけでなく元請業者や派遣元の安全配慮義務違反も認められた事案・一光ほか事件・名古屋高判令6.11.6労判1339号29頁

【事案の概要】

本件は、県発注の水管橋塗装工事現場において、当時17歳であった亡労働者K(原告らの長男)が、足場資材の搬出作業中に高さ12.9メートルの歩廊から転落して死亡した労働災害事故です。

亡Kは、被告B5(個人事業主)に雇用され、多重請負構造(元請けY1社一光、一次下請けY2社濱田工業、二次下請けY3社ALOUD等)の中で、被告B4(派遣元)を通じてY3社(派遣先)の現場に派遣され、本件工事に従事していました。事故当日、亡Kは足場解体後の資材搬出作業を行っていましたが、前方の作業員(Y3社が手配した職長E)が停止したため、これを追い越そうとして手すり(高さ90cm)を乗り越え、歩廊外の横桁に乗った際にバランスを崩して転落しました。亡Kは工事作業時には墜落制止用器具(胴ベルト)を装着していましたが、搬出作業に移行した後の事故時はこれを装着していませんでした。

亡Kの両親ら(原告Xら)は、元請業者や直接の雇用者ら計5名(Y1社、Y2社、Y3社、B4、B5)に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求めて提訴しました。一審は全員の責任を認めつつ亡Kの過失を25%としましたが、双方が控訴しました。

【判決の要旨】

控訴審は、一審同様に被告ら5名全員の安全配慮義務違反(共同不法行為責任)を認めましたが、亡Kの過失割合を15%に軽減し、認容額を増額しました。

1.各被告の安全配慮義務とその違反

裁判所は、多重請負関係にある各業者が、それぞれの立場に応じて亡Kに対する安全配慮義務を負っていたとし、以下の通り義務違反を認定しました。

⑴直接の雇用主(B5)の義務違反

雇用主であるB5は、労契法5条により、被雇用者である亡Kを仕事に従事させるに当たっては、その年齢や経験等から適当な仕事であるか、実際の現場の指揮監督が適正に行われているかを確認し、従事させる仕事を選択し、仕事内容に応じた適切な指導をするなどして、亡Kの生命身体の安全に配慮すべき注意義務を負っていた。

そうであるにもかかわらず、B5は、亡Kを本件工事の作業に従事させるに当たり、送り出し教育を含めた安全衛生教育を実践したことは全くうかがわれない上、本件解体作業につき、その年齢や経験等から適当な仕事であるか、実際の現場の指揮監督が適正に行われているかなどの確認等をしたこともうかがわれない。

⑵派遣元(B4)の義務違反

建設業務についての労働者派遣事業は禁止されている(派遣法4条1項2号)に照らしても、B4は、亡Kを派遣する者として、亡Kの従事する作業の内容を把握し、危険な業務等が行われるおそれがあるときにはその差止めあるいは是正を受役務者に求め、また、必要に応じて派遣を停止するなどして、亡Kが危険な業務に従事することなどにより生命身体の安全を損なうことのないよう予防すべき注意義務を負っていたのに、それを怠った。

⑶二次下請・派遣先(Y3社・ALOUD)の義務違反

現場での直接的な指揮監督関係にあったことから、当然に安全配慮義務を負うが、職長Eらが安全教育を実施せず、胴ベルト未装着での作業や手すりの乗り越えを放置した。

⑷一次下請(Y2社・濱田工業)の義務違反

Y2社の代表者が本件工事の足場工事の安全衛生責任者及び専任主任技術者を務めていたところ、安全衛生責任者は、当該請負人の労働者が行う作業のみでなく、当該労働者以外の者の行う作業によって生じる労働災害に係る危険の有無の確認等の安全対策を行うとされていること(労安衛法16条、労安衛規則19条5号)も踏まえれば、亡Kとの間で雇用主に準ずる特別な社会的接触の関係に入っていたものとして、安全配慮義務を負っていた。

具体的には、亡Kの年齢等を確認、把握し、亡Kを高所での本件解体工事に従事させることの当否を検討すべきであったほか、本件解体工事の作業場所、内容、亡Kの経験年数等に照らし、安全衛生の確保に係る活動として危険予知活動を徹底させるべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った。

⑸元請(Y1社・一光)の義務違反

Y1は、本件工事の一部をY2らに下請けさせ、自らも仕事の一部を行う者のうち最先次のものとして、労安衛法15条1項の特定元方事業者に当たる。特定元方事業者は、労安衛法29条及び30条の規定により、関係請負人の労働者を対象として、必要な指導、是正のため必要な指示等を行う義務を課されているほか、作業場所の巡視、労働者の安全衛生教育等について必要な措置を講ずるものとされている。これら法令上の定めに加え、現に統括安全衛生管理義務者であるGが本件工事の現場を巡視し、関係請負人の労働者等の実態を把握する契機を有していたことに照らせば、Y1は、亡Kとの間で、雇用主に準ずる特別な社会的接触の関係に入っていたものと評価することができ、亡Kの生命身体の安全に配慮すべき注意義務を負う。

Y1は、安全配慮義務の具体的履行として、特定元方事業者として、毎作業日に少なくとも一回、巡視を行い、亡Kの年齢等を確認、把握するよう努め、亡Kを派遣労働者として高所での本件解体作業に従事させることの可否を検討すべきであったほか、自ら及び下請業者をして、本件解体作業の作業場所、内容、亡Kの経験年数等に照らした安全衛生の確保に係る活動としての危険予知活動を徹底させるべき義務を負っていたが、それを怠った。

2. 過失相殺(15%)

本件事故のような転落事故について、転落した被災者の側の過失の有無及び程度を検討するに当たっては、被災者の経験や理解力の程度、使用者らの被災者に対する安全教育の程度、転落の原因及び防止措置の有無等を踏まえた被災者の過失の内容等の事情を総合的に考慮すべきであるとした上、亡Kは当時17歳で経験が浅く、本来高所作業に従事させるべきではない者であったこと、被告らによる安全教育は極めて形式的で不十分であったっこと、手すりの乗り越え等の危険行動が現場で常態化していたこと等の事情を考慮し、亡Kの過失は15%にとどまると判断しました。

※確定

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