【残業代】Case660 基本給や職能給を減額しその分を新たに固定残業手当に充当する不利益変更に対する同意が否定された事案・キュービーネットほか事件・東京地判令7.7.17労判1344号63頁

【事案の概要】

原告労働者X1〜X8(計8名)は、ヘアカット専門店「QBハウス」の複数の店舗において理美容師として業務に従事していました。被告Yは、QBハウスを展開するA社(キュービーネット株式会社)との間で業務委託契約を締結し、フランチャイジーとして本件4店舗等を運営していました。

Xらは、「QBスタッフ採用書」等に署名して就労していましたが、A社およびYのいずれとの間にも雇用関係が成立したと主張し、両者に対して未払割増賃金等の支払いを求めました。

A社の使用者性は否定されました。

主な争点は、XらとYとの間に固定残業代の合意が成立しているか(特に基本給等を減額して固定残業代に充当する変更の有効性)、本件4店舗が労基法上の「一つの事業」に当たり、週44時間の法定労働時間の特例(常時10人未満の事業場)が適用されるか否かです。

【判決の要旨】

裁判所は以下のように判断し、Yに対する未払割増賃金等の請求を認めました。

1. 固定残業代導入(労働条件の不利益変更)

Yは一部の原告(X2・X3)に対し、従前の給与総額を維持しつつ基本給や職能給を減額し、その分を新たに「固定残業手当」に充当する変更を行いました。

判決は、このような労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当であるとしました。

そして、労働者にもたらされる不利益が重大である一方で、Yからの十分な説明等があったとは窺われないとして、X2およびX3らについての固定残業代の合意成立を否定しました。

2. 「一つの事業」の該当性(労働時間特例の適用)

本件4店舗が、法定労働時間を週44時間とする特例の要件(常時10人未満)に該当するかについて、各店舗が独立した「一つの事業」に当たるかが争点となりました。

判決は、労働基準法における事業は、一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体であり、一つの事業であるかどうかは、主として場所的観念によって決定すべきであって、同一場所にあるものは原則として 1 個の事業とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業であるが、場所的に分散していても、出張所・支所等で、規模が著しく小さく、組織的関連又は事務能力等を勘案して一つの事業という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一つの事業となるものと解されるとした上で、本件4店舗は場所的に分散しており、各店舗の店長が日常業務やシフト調整等の労務管理を裁量で行っていることから、組織的関連又は事務能力等を勘案して一つの事業という程度の独立性がないものではなく、それぞれが一つの事業に当たると認定し、各店舗における1週間の法定労働時間を44時間と判断しました。

※控訴

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