【不当解雇】Case662 労働者が申し出た退職日より前の退職日を会社が指定したことが実質的な解雇に当たるとされた事案・M・コレクション事件・東京地判令7.5.22労判1345号5頁
【事案の概要】
原告労働者Xは、シーシャ(水たばこ)バーの運営等を営む被告Y社に雇用され、店長として勤務していました。Xは、令和6年3月23日、Y社に対し「5月15日付けで退職したい」旨を申し出ました。これに対しY社は社内協議のうえ、Xの退職日を「4月10日」とすることに決定し、3月28日の面談において、4月10日をもって雇用関係が終了する旨の記載がある「守秘義務に関する誓約書」にXの署名・押印を求めました。Xはこれに応じたものの、翌日には労働基準監督署に相談して本件が解雇に当たるとの回答を得たとし、Y社に解雇予告手当の支払いを求めました。
Xは、Y社が退職日を前倒しに指定したことは実質的な解雇に当たるとして、労働基準法20条に基づく解雇予告手当および同114条に基づく付加金の支払いを求めて提訴しました。主な争点は、XがY社の定めた「4月10日」での退職に同意したか否か(合意退職の成否)です。
【判決の要旨】
裁判所は、労働者が指定した退職日よりも前の日を使用者が退職日として指定した行為について、同意がない限り「実質的な解雇」に当たると判断し、Xの解雇予告手当および付加金の請求を認容しました。
裁判所は、「労働者が退職日を定めて退職の申入れをした場合であっても,当該退職日までの期間は労働契約が存続し,労働者は同契約に基づく地位を有することに変わりはない。したがって,上記の場合において使用者が労働者の申し出た退職日より前の日を退職日と定め,これに従って労働者が退職したときは,労働者は,使用者からの一方的な意思表示によって,自己が申し出た退職日までの期間における労働契約上の地位を喪失したことになる。そうすると,このような使用者による退職日の指定については,労働者が使用者の定めた退職日をもって退職することに同意した場合を除き,使用者による一方的な労働契約の解約として実質的な解雇に当たり,労基法の定める解雇に関する規定が適用されると解するのが相当である。」としました。
Y社は、3月28日の面談でXが誓約書に署名・押印したことをもって「退職日を4月10日とすることに合意した」と主張しました。しかし裁判所は、退職日が1か月以上前倒しになることはXにとって賃金が支払われないという相応の不利益をもたらすため、本来は慎重な検討を要するはずであると指摘しました。その上で、3月28日の面談はわずか10分程度で理由等の説明も特になく終了していることや、Xが翌日には労基署に相談して解雇予告手当を請求している行動等を踏まえ、「本件誓約書への署名,押印が原告の真意に基づくものであったとは認められないから,これによって原告が4月10日をもって退職することに同意したとはいえない」と判断しました。
※控訴

