Case499 既に組合を脱退した者に対する権利利益の回復を求める組合の不当労働行為救済申立てについて救済利益が認められた事案・明輝製作所事件・東京高判昭63.8.31労判527.34
(事案の概要)
不当労働行為救済命令に対して、組合と会社の双方が取消訴訟を提起した事案です。
原告会社は、原告労働組合に所属する組合員ら6名に対して、本来の仕事を行わせず倉庫整理や屋根のペンキ塗り等の雑作業を命じたり、残業や休日出勤を認めないなど、他の従業員とは異なる取扱いをしました。
原告組合は、会社による上記取扱いが不当労働行為に当たるとして、労働委員会に対して組合員らに対する差額賃金の支払い等を求める救済命令を申し立てました。
中央労働委員会は、会社による上記取扱いが、原告組合に対する不利益取扱及び支配介入の不当労働行為に当たるとして、救済命令を行いましたが、地労委の結審時に原告組合を脱退していた5名に対する差額賃金の支払いについては、原告組合は救済利益を失ったとして棄却しました。
(判決の要旨)
判決は、会社による上記取扱いが労働組合活動を理由とする不利益取扱いであり、労働組合に対する支配介入に当たるとする中労委命令を維持しました。
また、地労委の結審時に原告組合を脱退していた5名に対する差額賃金の支払いを棄却した中労委命令の判断については、当時組合員であった5名の者に対する残業等についての差別は、個々の組合員の権利利益の侵害にとどまらず、組合運営についての支配介入にも当たるのであるから、原告組合は、正常な集団的労使関係秩序を回復確保するために、かかる侵害状態の除去、是正を求める固有の救済利益を有するものであって、この利益は、不利益取扱いを受けた組合員がたとえ自己の意思によって組合を脱退した場合においても失われるものではないとしました。
原告組合の救済申立てのように、組合員個人の雇用関係上の権利利益の回復という形をとっている場合には、当該組合員個人が組合脱退に伴い積極的に右権利利益を放棄する意思表示をするか、又は組合の救済命令申立てを通じて右権利利益の回復を図る意思のないことを表明したときは、組合はかかる内容の救済を求めることはできないが、本件ではそのような事情はなく、組合からの脱退には、それが組合員自らの意思に基づく場合であっても、通常は右のような意思表示ないしは意思の表明が含まれているものとは認められず、このことは、組合脱退が会社を退職した後に改めて自己の意思に基づいてしたものであっても同様であるとしました。
以上より、地労委の結審時に原告組合を脱退していた5名に対する差額賃金の支払いについて棄却した中労委命令を取り消しました。