Case508 3か月間具体的な業務を与えなかったことが使用者の裁量権を逸脱するものであるとして精神障害の業務起因性が認められた事案・国・広島中央労基署長(中国新聞システム開発)事件・広島高判平27.10.22労判1131.5

(事案の概要)

 労災不支給決定に対する取消訴訟です。

 原告労働者は、本件会社においてシステム運用の業務を行っており、マシンルーム(セキュリティ室およびサーバー室)への入室を認められていました。

 原告がうつ病により休職したことから、本件会社は復職後の原告に対して本来の業務とは異なる比較的軽易な業務を行わせていました。

 しかし、本件会社は、原告が業務命令に従わないため、原告をサーバー室などに置くことが危険であるなどとして、原告のマシンルームへの入室権限を取り消し、原告の席をマシンルームから大部屋に移動させました。

 また、本件会社は、約3か月間原告に対して具体的な業務を与えず待機状態としました。

 原告は、反復性うつ病性障害(本件疾病)を発症し、本件会社を休職しました。

 広島中央労基署長は、原告の労災申請に対して、本件疾病が業務上の疾病に当たらないとして、不支給決定をしました。

(判決の要旨)

 判決は、労災保険法に基づく災害補償制度は、使用者が労働者をその支配下に置いて使用従属関係の下で労務の提供をさせるという労働関係の性質から、業務に内在する各種の危険が現実化した以上、使用者に無過失の補償責任を負担させるのが相当であるとするいわゆる危険責任の法理に基づくものであると解されるから、当該業務と当該疾病等との間に相当因果関係が認められる場合とは、当該疾病等が業務に内在する危険の現実化として発生したと認められる場合のことをいうと解するのが相当であり、精神障害の発病の場合、業務との相当因果関係が認められるには、①当該業務による負荷が、平均的な労働者にとって、そのストレスによって精神障害を発病させるに足りる程度の負荷であることと、②当該業務による負荷が、その他の要因に比し相対的に有力な原因となって当該精神障害を発病させたと認められることが必要であるとしました。

 そして、本件会社が、原告のマシンルームへの入室権限を取り消したことは、業務上の合理的な理由に基づく措置であるとは認められず、自席を大部屋に移動された上、マシンルームへの入室権限を取り消されたことは、原告に疎外感を与えるもので、仕事を与えられていないことによる心理的な負荷を増大させる出来事であったと認めるのが相当であるとしました。

 また、業務を与えられなかったことについては以下のように述べました。使用者は、雇用する労働者の配置・業務の割当等については、業務上の合理性に基づく裁量権を有すると解されるが、労働者に労務提供の意思があり、客観的に労務の提供が可能であるにもかかわらず、使用者が具体的な業務を担当させず、あるいは、その地位・能力と比べて著しく軽易な業務にしか従事させないという状態を継続させることは、当該労働者に対し、自分が使用者から必要とされていないという無力感を与え、他の労働者との関係において劣等感や恥辱感を与えるなどの危険性が高いことから、そのような状態に置かれた期間及び具体的な状況等によっては、使用者の合理的な裁量の範囲を超えると評価される場合があり、また、平均的な労働者を基準としても、精神障害を発症する原因となる強い精神的負荷を与え得るものであるといえる。特に、使用者が、労働者の雇用を維持する一方で、何らの具体的な仕事を与えないという状態は、それ自体が異例である上、前期のとおり、当該労働者に強度の心理的負荷を与える危険のある状態であることからすると、人員配置又は職務分担上のやむを得ない理由による一時的な措置である場合や、当該労働者が休職や懲戒処分等によって終業を制限されている場合などのような特段の事情がある場合を除き、業務上の合理的な理由があるとは認められないとしました。

 そのうえで、本件会社が原告に対し具体的な業務を与えない状態を継続させたことは、業務上の合理性のある措置ということはできず、本件会社の裁量権を逸脱するものであり、パワハラ等にも該当し得るものであるうえ、約3か月間継続したものであることからすると、心理的負荷の強度は「強」に該当するとして本件疾病の業務起因性を認め、労災不支給決定を取り消しました。

※確定

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