Case510 右足関節機能障害を持つ労働者を異動させず家庭訪問業務を継続させたことが安全配慮義務違反に当たるとされた事案・大和高田市事件・奈良地葛城支判令4.7.15労判1305.47
(事案の概要)
原告労働者は、一般職として被告大和高田市に採用され、平成8年度からは市税の徴収業務に従事していました。
原告は、平成9年5月に交通事故に遭い、右足関節捻挫、右大腿部打撲等の傷害を負い、平成10年11月に右足関節機能障害5級の身体障碍者手帳の交付を受けました。
原告は、平成17年度からE課に配属され、ケースワーカーとして生活保護受給者の自宅を年400回以上訪問するようになりました。原告は、E課に配属されたころから右足に違和感や疼痛を覚えるようになり、右足をかばって不自然な歩き方をするようになっていました。E課長は、人事課の職員に対して、原告の右足の状態からE課の業務は難しいと伝えていました。原告も、平成17年11月以降、自己申告書に人事上配慮が必要な病名等として下肢肢体不自由5級を挙げて異動を希望し、平成19年度以降は身体障害者手帳のコピーを提出していました。
しかし、大和高田市は原告を異動させず、平成21年度からは原告にE課係長を命じ、平成23年度にF課に異動させるまで家庭訪問業務を行わせ続けました。
原告は、右足の症状を悪化させて変形性関節症を発症し平成22年9月に右足関節固定術を受け装具や杖を使用するようになっていました。
本件は、原告が大和高田市に対して、異動を行わなかったために右足の症状が悪化したとして、安全配慮義務違反に基づき損害賠償請求した事案です。
(判決の要旨)
判決は、原告の右足関節の症状悪化と業務との因果関係を判断するには、原告ん既存の障害、現実に認められる右足の状態、原告の従事した業務の状況や性質、それが心身に及ぼす影響の程度などを総合勘案することが相当であるとしました。
そして、諸般の事情から、原告は、E課において家庭訪問等の右下肢に負担となる業務を継続し、それが変形性関節症の誘因となって、原告の右足関節の症状を悪化させ、右足関節固定術を受けるに至らしめたと推認するのが合理的であるとしました。
また、使用者は、労働者の生命・健康が損なわれないよう安全を確保するための措置を講ずべき義務を負っており、労働者が現に健康を害し、そのため当該業務にそのまま従事するときには、健康を保持する上で問題があり、あるいは健康を悪化させるおそれがあるときには、速やかに労働者を当該業務から離脱させ、又は他の業務に配点させるなどの措置を取るべき義務を負っているとしました。
そして、大和高田市は、平成17年以降、原告をE課から異動させず、多数回の家庭訪問に従事させたのであるから、安全配慮義務違反があるとして、大和高田市に対して慰謝料300万円の支払を命じました。
※確定