Case566 2度の過半数代表者選挙が無効とされたうえ理事が選挙活動に不当に介入したことが不法行為に当たるとされた事案・学校法人松山大学ほか事件・松山地判令5.12.20労判1320.5
(事案の概要)
被告学校法人が設置する本件大学の教職員である原告労働者ら3名が、専門業務型裁量労働制の無効を主張して残業代請求した事案です。原告Aは、被告法人及び常務理事である被告教授に対して、過半数代表者の選出に違法に介入されたとして損害賠償請求もしています。
本件大学には、本件大学の教職員で組織される教職員会があり、教職員会が過半数代表者選出規程を作成していました。同規程には、投票をしなかった選挙権者につき有効投票による決定に委ねたとみなすという規定がありました。
平成30年度の労使協定に係る過半数代表者選挙では、立候補者がE教授のみであったため、信任投票が行われたところ、選挙権者493名に対して、信任票124票、不信任票0票でしたが、上記規定により信任とみなされE教授が過半数代表者に選出されました。法人は同年度に就業規則を改正し専門業務型裁量労働制を新たに規定し、E教授が専門業務型裁量労働制に関する労使協定を締結しました。
平成31年度の労使協定に係る過半数代表者選挙では、原告Aが過半数代表者の立候補者になるため必要な推薦人を集めていたところ、被告教授は、他の教授らに対して原告Aの推薦署名をしないよう働きかけました。選挙管理委員会は、被告教授による働きかけにより公正な選挙の実施に疑義が生じ、被告法人から事態解決に向けた協力が得られなかった等として解散しました。その後、被告法人の依頼により教職員会が推薦する4名で新たに選挙管理委員会(解散後選挙管理委員会)が立ち上げられました。上記規程上、5名の選挙管理委員会のうち1名は過半数代表者が指名するとされていましたが、E教授の任期が満了していたため、4名の構成となりました。解散後選挙管理委員会により選挙が行われ、過半数の信任によりJ教授が過半数代表者に選出され、J教授が専門業務型裁量労働制に関する労使協定を締結しました。
(判決の要旨)
1.平成30年度の労使協定
判決は、過半数代表者の選出手続は、労働者の過半数が当該候補者の選出を支持していることが明確になる民主的なものである必要があるとしました。
そのうえで、E教授は選挙権者全体の約25%の信任を得たに過ぎず、選挙権者が投票しなかった場合は有効投票による決定に委ねたものとみなすという規定があったとしても、本件において労働者は、有効投票による決定の内容を事前に把握できるものではなく、また信任の意思表示に代替するものといて投票をしないという行動をあえて採ったとも認められないから、上記規程によっても、投票しなかった選挙権者がE教授の選出を支持していることが明確になるような民主的な手続がとられているとは認められないとして、過半数代表者の選出を無効とし、E教授が締結した労使協定も無効としました。
2.平成31年度の労使協定
判決は、選挙管理委員会の委員のうち過半数代表者が指名する者1名の欠員は、軽微な瑕疵とは認められないとしました。
また、原告Aの過半数代表者への立候補に対する被告教授による不当な介入につき、被告法人が問題解決に向けた取組みをしなかったこと、本件解散後選挙管理委員会はそうした中で、被告法人の依頼を受けた本件教職員会の内部における協議によって設置されたものであること等の経緯を総合して考えると、過半数代表者選出選挙は、その公正さに疑義があるといわざるを得ず、同選挙において、選挙権者の過半数がJ教授の選出を支持していることが明確になるような民主的な手続がとられたとは認められないとして、過半数代表者の選出を無効とし、J教授が締結した労使協定も無効としました。
3.原告Aの損害賠償請求
判決は、労基則6条の2第1項2号に照らすと、労働者は、使用者による不当な関与が排除された環境の下、使用者に委縮することなく、過半数代表者に立候補できる地位が法的に保障されていると解されるから、使用者が、過半数代表者の選出選挙に係る選挙活動に不当な関与をすることは、同条3項の不利益な取扱いそのものとはいえないものの、上記のような労働者の法的保護に値する地位を侵害するものとして、当該労働者に対する不法行為を構成するとしたうえ、被告教授に対して慰謝料10万円の支払を命じました。
※控訴