【残業代】Case612 使用者が労働時間管理を行っていない場合、労働者の概括的な主張に沿って労働時間を認定することも許容されるとした事案・大栄青果事件・福岡高判令6.2.15

使用者がタイムカード等による時間管理を全く行っておらず、労働時間の証拠がほとんどない場合でも、残業代請求は認められるのでしょうか。

大栄青果事件は、青果物卸売業者の従業員が、会社に対して残業代請求した事案です。特に労働時間管理が全く行われていない状況における労働時間の認定方法が焦点となりました。

【事案の概要】

本件は、青果物卸売業者である被告Y社に対し、Y社の7名の従業員(原告Xら)が残業代請求等をした事案です。Xらの主な業務は、青果市場内でのセリ関連業務と、仕入れた商品の販売先への配達業務でした。Xらには、基本給、セリ人手当、早出手当、所定時間外賃金、皆勤手当が支給されていましたが、Y社は、タイムカード等の労働時間管理を一切行っていませんでした。そのため、Xらは概括的な労働時間の主張をせざるを得ませんでした。事業場がみなし制の適用も争点となりました。

Xらのうち2名は、就業規則に基づく退職金も請求しましたが、否定されています。

また、Xらが加入する労働組合も原告となり、団体交渉申入れ拒否に対する不法行為に基づく損害賠償を請求しましたが棄却されています。

Y社には、手書きの「就業規則」が存在し、実働8時間の就業時間や退職金に関する定めがありましたが、その作成経緯や従業員への周知は不確かでした。 原告らは、未払いの時間外労働および深夜労働に対する割増賃金と労働基準法(労基法)114条に基づく付加金の支払いを請求しました。また、A2とA3は就業規則に基づく退職金も請求し、原告組合はY社による。

【判決の要旨】

一審判決・福岡地小倉支判令5.6.21労判1332.86

1 割増賃金の基礎となる賃金単価

セリ人手当、皆勤手当のほか、早出手当および所定時間外賃金についても、明確区分性及び対価性が認められないことから、割増賃金の基礎となる賃金の額に含まれると認められました。

2 実労働時間

Y社において始業・終業時刻の管理を目的とするタイムカード等が全く採用されていなかったことを鑑み、客観的な証拠に反したり、明らかに不合理な内容を含まない限り、Xらの概括的な主張に沿って労働時間を認定することが許容されるとされました。そして、Xらの主張どおりの始業・終業時刻および1時間の休憩時間が認められました。

3 事業場外みなし制の適用

Xらの業務が毎日事務所を出発し、必ず事務所に戻るものであり、直行直帰が常態化していた等の事情も認められないことから、客観的に見て勤務状況を具体的に把握することが困難であったとは認めがたく、事業場外労働みなし労働時間制の適用は否定されました。

4付加金請求

Y社が事業場外みなし制が適用されるという独自の解釈を前提に労働時間管理を全く行わず、多額の未払割増賃金を発生させたことから、付加金請求は全部(除斥期間経過分を除く)認められるのが相当であるとされました。

控訴審

控訴審も概ね原審の結論を維持しました。労働時間のうち、証拠上早退したと認められる時間のみ削られました。

※上告棄却・不受理により確定

【まとめ】

・使用者によるタイムカード等による労働時間管理が全く行われていない場合、客観的な証拠に反しない限り、従業員の概括的な労働時間主張が許容され得る。

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