【不当解雇】Case643 セクハラ疑惑等を理由とする賃金減額合意及び連絡が取れる状態での行方不明による退職扱いが無効とされた事案・O・S・I事件・東京地判令2.2.4労判1233.92
【事案の概要】
原告労働者Xは、有料老人ホーム等を運営する被告Y社に機能訓練指導員として雇用され、月額24万円(基本給23万円+手当1万円)の賃金支給を受けていました。Y社代表者は、Xによる無断アルバイトや利用者へのセクハラ疑惑を指摘して謹慎を命じた後、業務を介護職員に変更し、賃金を基本給18万円のみ(約25%減額)とする雇用契約書(本件契約書)を提示し、Xはその翌日に署名押印して提出しました(本件合意)。
その後、Xは職場でのトラブル等を指摘された翌日から出勤しなくなりましたが、ファクシミリや電子メールで休暇届や休職の申し出等をY社に送信していました。Y社は、Xが出勤せず「行方が不明となり、14日以上連絡が取れないとき」という就業規則の退職条項(本件退職条項)に該当するとして、Xを退職したものとみなす旨を通知しました。
Xは、雇用契約上の地位確認、減額前の賃金に基づく未払賃金等を求めて提訴しました。
【判決の要旨】
1. 行方不明による退職扱いの有効性(本件退職条項の解釈)
裁判所は、懲戒解雇事由とは別に設けられた「行方不明による退職」の条項について、本件退職条項にいう『従業員の行方が不明となり、14日以上連絡が取れないとき』とは、従業員が所在不明となり、かつ、Y社が当該従業員に対して出勤命令や解雇等の通知や意思表示をする通常の手段が全くなくなったときを指すものと解するのが相当であるとしたうえ、Xは出勤しなくなって以降も、ファクシミリや電子メールを用いてY社に連絡を取っており、Y社がXに対し通知や意思表示をする手段が全くなくなったとは認められず、Xは本件退職条項に該当せず、本件雇用契約が終了した事実は認められないとして、Xの地位確認請求を認容しました。
2. 賃金減額合意の有効性
署名押印された賃金減額の合意について、裁判所は最高裁(山梨県民信用組合事件)の法理を引用し、「賃金の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものと解するのが相当である」としたうえ、本件合意は賃金総額を25%も減じるもので不利益の程度が大きく、Y社が減額の根拠について十分な調査や客観的な証拠を示して説明した事実も認められず、Xが契約書を持ち帰って翌日に署名押印した経緯を考慮しても、Xの自由な意思に基づいてされたものとは認められず、賃金減額は無効としました。
3. 就労不能期間等の賃金請求権
平成27年10月から平成28年3月までは、Xはうつ状態により就労能力または意思を喪失していたものの、平成28年4月1日にXが就労再開を求めたにもかかわらずY社が拒絶してから、Xを支援していた労働組合がXの支援を打ち切りXが就労意思を失った平成28年9月1日より前の期間については、Y社の帰責事由(民法536条2項)により、Y社は賃金支払義務を免れないとされました。
※控訴

