Case657 組合の方針対立により不当労働行為当時所属していた労働組合を脱退した組合員個人の救済の利益が認められた事案・国・中労委(ジェイアールバス関東)事件・東京高判令7.9.30労判1342号76頁
【事案の概要】
⑴本件の概要
担当事件です。
原告労働者Xの不当労働行為救済申立てを棄却した中央労働委員会(中労委)命令に対する取消訴訟です。
Xは、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の子会社であるジェイアールバス関東株式会社の運転手であり、東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)の水戸地方本部等に所属する組合員でした。平成30年11月、Xは支店長から非違行為の指導を受けた際、非違行為を会社に報告しない条件として、JR東労組から脱退するよう勧奨されました(本件脱退勧奨)。本件脱退勧奨の事実については録音があり争いがありません。
⑵背景事情
本件脱退勧奨の背景として、JR東労組は、平成30年2月、春闘要求に関連してJR東日本にストライキを通告していました。これに対して、JR東日本は、「会社発足以来の労使共同宣言の精神に反するものである」として強く反発し、JR東労組が争議行為を解除した後も、JR東労組が「争議行為を予告したことは、まさに、会社との間の信頼関係を破壊し」たなどとして、JR東労組に対して労使共同宣言の失効を通知しました。
この間、JR東労組では、組合員が大量に脱退する事態が進行しました。JR東労組東京地本、八王子地本及び水戸地本(三地本)は、JR東日本による組織的な脱退強要が行われているとして、平成30年3月にそれぞれ労働委員会に不当労働行為救済申立てをしていました。
同じ頃、JR東日本は、JR東労組に対し、今後の労使関係の基本的条件として、①労使間の諸問題は速やかに団体交渉による話合いにより解決すること(②~⑤略)、⑥「不当労働行為」といった事実と異なる喧伝をやめること等の6項目の提案をしました。これは、両者の労使関係を巡る問題の解決に当たっては、争議行為や労働委員会等の第三者機関の活用によってではなく、団体交渉での解決を図るべきであるという方針を示し、JR東労組に方針転換を迫るものでした。これを受けて、JR東労組本部は、「平成30年の春闘の際に打ち出した闘争課題・闘争形態は組合員の求めるものではなく、多くの組合員の脱退を生み出した「大敗北」であった」などと総括し、争議行為や労働委員会への救済申立て等により使用者側と強く対峙することも辞さないという従前の方針を転換し、JR東日本の上記6項目の提案に応じる意向を示しました。そして、JR東労組本部の方針転換に従わない三地本に対して統制を強める姿勢を示しました。
こうして、平成30年4月、JR東労組本部は、不当労働行為救済申立てをしていた三地本に対して、これを取り下げるよう指示し、三地本は救済申立てを取り下げていました。
その後、本件脱退勧奨が起きました。
⑶本件救済申立ての経緯
JR東労組水戸地本らは、本件脱退勧奨について、東京都労働委員会(都労委)に対し不当労働行為救済申立てをするようJR東労組の本部に求めていました。しかし、前記の背景事情により方針転換していたJR東労組の本部は、本件救済申立てに反対しました。
そのような中、救済申立ての期限が迫り、X個人及びJR東労組水戸地本らは、やむを得ず独自に不当労働行為救済申立てをしました。X及びJR東労組水戸地本の組合員らは、組合員らに対する組織的な脱退勧奨がなおも継続しており、労働委員会に不当労働行為の救済を求める道を断念するわけにはいかないという強い信念がありました。
これに対して、JR東労組本部は、本件救済申立てが重大な統制違反であるとして、水戸地本の役員らに対し執行権停止等の統制処分を行いました。
本件救済申立てを支援する立場の三地本の多くの組合員は、JR東労組本部との対立が鮮明となったことから、Xの本件救済申立てを支援することなどを目的として、JR東労組を脱退し新たな労働組合であるJR東日本輸送サービス労働組合(JTSU)を結成しました。Xも、本部の方針に反する立場のままJR東労組にとどまって本件救済申立てを維持することは事実上不可能と考え、JTSUに加入し、個人で本件救済申立てを継続しました。
都労委は、Xの救済利益を肯定して救済命令を出しました。
しかし、中労委は、XがJR東労組を脱退してJTSUに加入したことにより「JR東労組との関係における団結を回復する必要性(救済利益)」が失われたとして、都労委命令を取り消し申立てを棄却しました。一審(東京地裁)も中労委の判断を支持したため、Xが控訴しました。
【判決の要旨】
東京高裁は、Xの救済利益を肯定し、一審判決を取り消し、中労委の命令を取り消しました。
東京高裁は、組合からの脱退勧奨を受けた組合員個人が申立人となっている場合において、当該脱退勧奨とは無関係に純粋に個人的な理由で当該組合から脱退したにすぎないような事案であれば、将来に向けて労使関係の正常化を図る必要性は失われており、救済の利益が認められないという判断はあり得るところであり、本件中労委命令及び原判決の判断は、このような単純化した図式の下では、妥当する余地はあり得るとしました。
しかし、本件では、JR東労組は、労働委員会等の第三者機関を活用することなく団体交渉での問題解決を図る方針を徹底すべく、本部からの指導に従わずに本件救済申立てをした水戸地本の行動を統制違反であるとして厳しく批判し、その執行部役員の執行権停止を敢行するなどしていたという特殊事情を踏まえて検討する必要があり、Xにおいて、このような方針を先鋭に打ち出しているJR東労組の組合員の立場のままで、本件救済申立てを維持し、都労委での手続に対応していくことは事実上不可能であると考えて、JR東労組を脱退し、本件救済申立てを支援してくれるであろうJTSUに加入したのは、やむを得ない判断であったというべきであるとしました。
そして、このような理由で、「飽くまでも本件救済申立てを維持するためにJR東労組を脱退するに至った控訴人に対し、当該脱退の事実を理由に救済の利益を否定するのは、理不尽・不条理といわざるを得ない」と中労委を厳しく批判しました。
また、JTSUは、形式的にはJR東労組、同水戸地本とは別個の団体であるとしても、同水戸地本の構成員、役員、活動方針の多くの部分を引き継いでおり、実質的にはJR東労組からの分裂により成立した後継団体に当たると位置付けることができ、しかも、JTSU結成の目的には、Xによる本件救済申立てを支援し、これを維持できるようにするという点も含まれていたのであり、重要な活動方針においても、JR東労組水戸地本の後継団体と位置付けられるとしました。そうすると、Xにおいて、現在の状況下でJR東労組から分裂した後継団体というべきJTSUとの関係でも脱退勧奨を受けかねないとの懸念を抱くのは当然であり、本件脱退勧奨に関し、不当労働行為救済を求める利益は認められるというべきであるとしました。
さらに、東京高裁は、労働委員会には広範な裁量権が付与されているという会社の主張に対して、「労働委員会の裁量権は、不当労働行為に対する救済を実質あるものにする観点から認められるべきものであり、救済の利益を否定する方向で広範な裁量権を有するなどと解することはできない。」としました。
※上告及び上告受理申立て

