Case41 石綿被害につき一人親方の保護を認めた最高裁判例・建設アスベスト訴訟(神奈川)事件・最判令3.5.17労判1252.5
(事案の概要)
石綿(アスベスト)含有建材から生ずる石綿粉じんにばく露したことにより石綿関連疾患(中皮腫等)を発症した建設作業従事者やその遺族が、国に対して、石綿粉じんにばく露することを防止するために労働安全衛生法(安衛法)に基づく規制権限を行使しなかったことの違法性を主張して国家賠償を求め、建材メーカーらに対して、石綿粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険がること等を表示せずに石綿含有建材を製造販売したことの違法性を主張して不法行為に基づく損害賠償を求めた集団訴訟です。
(判決の要旨)
一審判決
一審判決は、原告らの請求をいずれも棄却しました。
控訴審判決
控訴審は、国は遅くとも昭和56年1月1日の時点で、事業者に対して一定の場合に労働者に呼吸用保護具を使用させることを義務付けたり、事業者に対して一定の指導監督をすべきであったとし、当該違法状態が平成7年まで継続していたとしました。
もっとも、安衛法上の労働者に当たらない者(一人親方等)については保護されないとしました。
また、大工の原告について、主要メーカー3社( ㈱エーアンドエーマテリアル、ニチアス㈱及び㈱エム・エム・ケイ )の責任について、中皮腫については損害の3分の1の範囲、中皮腫以外については㈱エーアンドエーマテリアル10%、ニチアス㈱及び㈱エム・エム・ケイ3%の寄与度の範囲で連帯責任を負うとしました。
最高裁判決
最高裁は、国は、石綿にかかる規制を強化する特化則が施行された昭和50年10月1日には、安衛法に基づく規制権限を行使して、通達を発出するなどして、石綿含有建材の表示および石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として、石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると、石綿関連疾患を発症させる危険があること、ならびに石綿粉じんを発散させる作業およびその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督するとともに、安衛法に基づく省令制定権限を行使して、事業者に対し、屋内建設現場において上記各作業に労働者を従事させる場合に呼吸用保護具を使用させることを義務付けるべきであったとし、当該違法状態は、改正安衛法が施行された平成16年9月30日まで継続していたとし、控訴審判決よりも広い期間の違法性を認めました。
また、石綿による健康被害が生ずるおそれのあることは安衛法上の労働者に当たるか否かによって変わるものではないとして、労働者に該当しない一人親方等も保護されるとしました。
大工原告に対する主要メーカー3社の責任について、中皮腫とそれ以外とにかかわらず、損害の3分の1の範囲で連帯責任を負うとしました。