Case128 休職期間を延長せず一旦退職とし再雇用を保障する旨の上司の説明に基づく労働者の退職の意思表示が錯誤により無効とされた事案・石長事件・京都地判平28.2.12労判1151.77

(事案の概要)

 原告労働者は、平成25年4月、通勤中の交通事故により全治約6か月の負傷をして休業しました。同月、被告会社の職員は原告に対して電話で「6か月の休職期間があるので、それまでに治ったら復職できる。」と説明し、原告は「よろしくお願いします。」と答えました。もっとも、会社の就業規則では、業務外の傷病により1か月を超えて欠勤した場合に休職を命じるとされていました。

 平成25年10月、原告は今後手術後1~2か月程度の入院及びその後のリハビリ通院を要するとの診断を受け、同診断書を会社に提出したうえ、上司と面談しました。

 面談において、上司は、会社に原告の再雇用を保障する意思がないにもかかわらず、原告に対して、休職期間を延長するのではなく、一旦退職して治療に専念したうえで、完全に治ったら再雇用することを保障する、ただし労働条件は従前と同一ではないというのが会社の方針である旨説明しました。

 原告は、再雇用の保障があると考え、退職に応じました。

 その後、原告は会社に再雇用を求めましたが、会社はこれを拒否しました。

 本件は、原告が退職の意思表示は錯誤(民法95条)により無効であると主張し、雇用契約上の地位の確認や賃金の支払い等を求めた事案です。

 会社は、退職合意がなくても、平成25年10月に原告が休職期間満了により退職扱いになっているとも主張しました。

 また、係争中に原告が60歳定年を迎えたことから、定年以降の雇用契約の存否等も争点となりました。

(判決の要旨)

1 休職期間満了について

 判決は、平成25年4月の会社職員の原告に対する休職期間の説明は、傷病欠勤の1か月を考慮しない誤ったものであることから、仮にこれを休職命令と捉えても、就業規則上の要件を欠く無効な休職命令であるとしたうえ、仮に原告の回答をもって休職合意と捉えても、就業規則よりも原告に不利な合意であり無効としました。

 したがって、原告が休職期間の満了により退職していたとはいえないとしました。

2 退職の意思表示について

 判決は、原告は再雇用の保障がなければ退職の意思表示をしなかったとし、会社は再雇用を保障するとの意思を当時から有していなかったとして、原告の退職の意思表示は動機の錯誤に基づくものであると認め、原告の退職の意思表示を無効としました。

3 定年以降の雇用契約の存否について

 判決は、定年以降の雇用契約が認められるためには、定年時以降も雇用契約が維持ないし再締結された蓋然性が認められることが必要であるとしたうえ、高年齢者雇用安定法を根拠として直ちに定年以降も雇用契約が維持ないし再締結された蓋然性があると認めることはできないとしましたが、会社と従業員が締結した「定年後の継続雇用制度の選定基準に関する協定書」に、一定の基準を満たす者は65歳まで再雇用するものとされていたことから、当該基準に該当する限り、定年以降も雇用契約を再締結する蓋然性があるとしました。

 もっとも、原告は交通事故により長期欠勤をしていることから、当該基準を満たしていないとして、定年以降の労働契約上の地位確認及び賃金支払いは否定されました。

※控訴後和解

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