Case130 高次脳機能障害により精神的能力が4,5歳の程度となった労働者が提出した退職届が意思無能力により無効とされた事案・農林漁業金融公庫事件・東京地判平18.2.6労判911.5

(事案の概要)

原告労働者は、自宅で心肺停止し、低酸素脳症により、高次脳機能障害の後遺症が残り、精神的能力が4歳ないしは5歳の程度に固定されていました。

原告は、この状態で退職届に署名し、被告法人に提出しました。

本件は、原告(の後見人)が、退職の意思表示の無効を主張し、休職していれば得られたはずの賃金の支払い等を求めた事案です。

(判決の要旨)

 判決は、有効に意思表示が可能な意思能力とは、事理を弁識する能力であり、おおよそ7歳から10歳程度の知的な判断力であり、原告の判断能力はこの水準に達しておらず、意思無能力であったことから、退職届により退職の意思表示を無効としました。

 もっとも、原告が労務を提供することが不可能であったことから、会社が原告の労務提供を受けなかったことに過失はなく、退職が無効であったとしても会社は賃金支払義務を負わないとして、請求は棄却されました。

※確定

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