Case163 トイレに散布された殺菌剤の原液を拭き取る作業による化学物質過敏症の発症につき業務起因性を認めた事案・国・岩見沢労基署長(元気寿司)事件・札幌高判令3.9.17労判1262.5
(事案の概要)
労災不支給決定等に対する取消訴訟です。
原告労働者は、トイレに散布された殺菌剤の原液を拭き取る作業を開始した約30分後に頭痛、吐き気、めまいなどを訴え、「塩素の吸入」「塩素ガス中毒」「化学物質過敏症」と診断されました。
原告は本件拭き取り作業により化学物質過敏症を発症したとして労基署に労災保険法上の障害補償給付の請求をしましたが、業務起因性が認められないとして不支給決定を受けました。また、労基署長は、既に出ていた療養補償給付及び休業補償給付の支給決定を取り消す変更決定処分を行いました。
原告は審査請求及び再審査請求も行いましたがいずれも棄却されたため、本件訴訟を提起しました。
(判決の要旨)
判決は、本件トイレ内には少なくとも本件殺菌剤の主成分である次亜塩素酸ナトリウムがミスト状態となって空気中に浮遊しており、また化学物質過敏症自体は、微量な化学物質暴露でも発症し得るものであり、原告が暴露した次亜塩素酸ナトリウムは急性症状を発症するに足りるものであって微量とはいえないとしました。
そして、原告の化学物質過敏症の発症機序などについて確定することはできないものの、原告が業務上の事由により化学物質過敏症を発症したと認めるに足りるだけの有害因子(次亜塩素酸ナトリウム等)の暴露を受けており、原告において発症した疾病が、暴露した有害因子により発生する化学物質過敏症の症状・兆候を示し、かつ、暴露時期と発症との間及び症状の経過に医学的矛盾がなく、したがて、原告の化学物質過敏症は、本件拭き取り作業に内在及び通常随伴する危険が現実化したことによるものであるとして、業務起因性を認め労災不支給決定等を取り消しました。
※確定