Case165 客観的・具体的・合理的な査定基準の合意がないことから会社には年俸額を査定する権限がないとして年俸減額を無効とした事案・学究社(年俸減額)事件・東京地判令4.2.8労判1265.5

(事案の概要)

 担当事件です。以下はあくまで裁判所が認定した事実をまとめたものです。

 原告労働者らは、被告会社が経営する進学塾で年俸制の講師として就業していました。会社の給与規程には、年俸額について、会社が社員と個別に面談を行い、新たに契約を締結することにより決定する、成績により加給、減給がある場合はその内容は個別契約によると定められていました。

 原告らと会社が合意した平成30年度年俸通知書には、来期(令和元年度)の年俸額は、校舎成績を考慮した上で、授業アンケート結果及び人事考課に基づき昇給率を定めると記載されていました。

 会社は、令和元年度年俸通知書において、原告らに対して年俸減額を提示しました。原告らはこれに同意しませんでしたが、会社は一方的に原告らの年俸を減額しました。

 その後、会社は、社員に公開していない内部基準に校舎成績を当てはめて昇給率(減給率)を算出していたことを明らかにしました。

 本件は、原告らが年俸減額の無効を主張して、差額賃金の支払いを求めた事案です。

(判決の要旨)

 判決は、平成30年度年俸通知書による個別合意は、令和元年度の年俸額決定方法をきわめて抽象的にしか定めておらず、校舎成績等をどのように考慮し、どのような基準で昇給率を決定するのかを定めていないと指摘したうえ、労働条件の中でも最も重要なものの一つである賃金は労働者及び使用者が対等の立場で合意して決めるべき事項であることに照らすと、上記個別合意は、原告らと会社が客観的で合理的な昇給率の定め方を合意した場合に、これに従って会社に原告らの年俸額を査定、決定する権限を付与することを合意したものと解釈できるとしました。

 そして、原告らと会社は客観的、具体的ないし合理的な基準について合意をしていないから、会社には上記個別合意に基づき原告らの具体的な年俸額を査定、決定する権限がないとして、原告らに対する年俸減額を無効としました。

※確定

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