Case149 就業規則変更を了承した旨の書面に署名押印しただけでは出向手当を固定残業代とする不利益変更に対する自由な意思に基づく同意があるとはいえないとされた事案・グレースウィット事件・東京地判平29.8.25労判1210.77
(事案の概要)
本件は、原告労働者ら4名が、被告会社に対して未払賃金、出向手当、交通費、残業代等を請求した事案です(法人格否認の法理についても判断されています。)。このうち、原告Bの残業代請求について紹介します。
原告Bの請求に対して、会社は、出向手当が固定残業代であると主張しました。
原告Bの雇用契約書には、出向手当が固定残業代であることは記載されていませんでしたが、会社が原告Bとの雇用契約締結時のものとして証拠提出した就業規則には「出向手当は固定残業代として支給する」「28時間の固定残業時間が含まれる」と記載されていました。
また、会社は、原告Bと会社の雇用契約締結後に作成された新たな就業規則を証拠提出しました。当該就業規則には、「私どもが、会社の最新就業規則の内容について、会社の通知と説明を十分に受け、理解した上で了承しました。」との不動文字の下に原告Bらの署名押印のあるサインリストが添付されていました。
(判決の要旨)
判決は、原告Bと会社との間の雇用契約書では、出向手当は所定労働時間内の賃金に該当し、残業手当は出向手当とは別に精算されることが定められていたとしたうえ、仮に就業規則に出向手当が固定残業代であることが定められていたとしても、個別合意である雇用契約書が優先するとしました。
また、新たな就業規則により出向手当を固定残業代とすることは、労働条件の不利益変更に当たるとしたうえ、賃金減額についての原告Bの同意が自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要としたうえ、不利益変更の内容やその理由等に対する適切な説明や協議がされて、原告Bが不利益変更が生じることを正確に理解した上でサインリストに署名押印したなど、合理的な理由の客観的存在を認める証拠はないとして、新たな就業規則により出向手当を固定残業代とすることは無効であるとしました。
なお、会社の各就業規則の合理性及び周知性も否定されています。
※ 控訴後和解