Case160 変形労働時間制における勤務指定を使用者が任意に変更し得る旨の規定は「特定」の要件を満たさず無効であるとした事案・JR西日本(広島支社)事件・広島高判平14.6.25労判835.43【百選10版37】
(事案の概要)
鉄道会社である被告会社は、運転士である原告労働者らにつき労基法32条の2に基づく1か月単位の変形労働時間制を採用しており、就業規則には、従業員の勤務につき、「毎月25日までに翌月分を指定する」こと、「ただし、業務上の必要がある場合は、指定した勤務を変更する」ことが定められていました。
会社は、某月25日に翌月の勤務指定をしましたが、その後勤務指定の変更を行い、変更後の労働時間を所定労働時間として扱って賃金を支給しました。
本件は、原告らが、勤務指定の変更を認める就業規則の定めが、法定労働時間を超えて働く週及び日の「特定」を要件とする労基法32条の2に反し無効であると主張して、変更前の労働時間を所定労働時間として残業代を請求した事案です。
(判決の要旨)
判決は、公共性を有する事業を目的とする一定の事業場においては、勤務変更を可能とする規定があるからといって直ちに当該就業規則等の定めが労基法32条の2の求める「特定」の要件を充たさないとはいえないものの、勤務変更が労働者に与える不利益性から、使用者は、就業規則等において勤務を変更し得る旨の変更条項を定めるに当たっては、変更が許される例外的、限定的事由を具体的に記載し、その場合に限って勤務変更を行う旨を定めることを要し、使用者が任意に勤務変更し得ると解釈し得るような条項では、同条の要求する「特定」の要件を充たさないものとして無効になるとしました。
そして、勤務指定の変更を認める会社の就業規則の定めは、会社が勤務指定を任意に変更し得るような抽象的な定めになっており労基法32条の2の「特定」の要件を充たさず無効であるとし、変更前の労働時間が所定労働時間になるとし、原告らの請求を認めました。
※確定