Case198 1年以内に退職したらサイニングボーナス200万円を返還する旨の約定が不当な拘束手段であるとして無効とされた事案・日本ポラロイド(サイニングボーナス等)事件・東京地判平15.3.31労判849.75
(事案の概要)
原告会社が、退職した被告労働者に対してサイニングボーナスの返還を求めた事案です。その他被告労働者からの反訴等もありますが割愛します。
被告労働者は、入社時に会社から、1年以内に自発的に退職した場合には返還するとの条件付きでサイニングボーナス200万円の支給を受けました。
被告労働者が7か月で退職したため、会社は被告労働者に対してサイニングボーナス200万円の返還を求めました。
(判決の要旨)
判決は、暴行、脅迫、監禁といった物理的手段のほか、労働者に労務提供に先行して経済的給付を与え、一定期間労働しない場合は当該給付を返還する等の約定を締結し、一定期間の労働関係の下に拘束するという、いわゆる経済的足止め策も、その経済的給付の性質、態様、当該給付の返還を定める約定の内容に照らし、それが当該労働者の意思に反して労働を強制することになるような不当な拘束手段であるといえるときは、労働基準法5条、16条に反し、当該給付の返還を定める約定は、同法13条、民法90条により無効であるとしました。
そして、サイニングボーナスが経済的足止め策に他ならず、違約金又は賠償額の予定に相当する性質も有しており、金額も月額給与の2倍に相当するものであり労働者が退職を躊躇するものであることなどから、サイニングボーナスの返還規定を無効とし、会社の請求を棄却しました。
※確定
第5条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
労働基準法