Case199 契約期間満了前に退職した場合に返還するとの約定で会社が労働者に約1100万円を貸し付ける旨の契約が無効とされた事案・東京地判平26.8.14判時2252.66

(事案の概要)

 原告会社が、退職した被告労働者に対して貸金返還請求をした事案です。

 会社は、ヘッドハンティングした被告労働者をブローカーとして雇用(5年間の有期雇用)する際に、Cash Advance Distribution Agreement(CAD契約)を締結し、これに基づいて被告労働者に対して1045万円を、Forgivable Loan契約(FL契約)を締結し、これに基づいて被告労働者に対して約85万円を給付しました。CAD契約およびFL契約には、雇用期間満了前に被告労働者が退職した場合には、金銭全額の返還義務が発生する旨が定められていました。

 被告労働者が会社との労働審判上の調停により退職したため、会社は被告労働者に対して上記金銭の返還を求めました。

(判決の要旨)

 判決は、暴行,脅迫,監禁といった物理的手段によるものだけでなく,労働者に労務提供に先だって経済的給付を与え,一定期間労働しない場合には上記給付を返還するという契約を締結することにより,労働者を一定期間労働関係の下に拘束するといういわゆる経済的足止め策も,当該経済的給付の性質,態様,当該給付の返還を求める約定の内容に照らし,それが労働者の自由意思に反して労働を強制するような不当な拘束手段であるといえるときは,労基法5条,16条に反し,当該給付の返還を定める約定は,同法13条,民法90条により無効であるとしました。

 そして、CAD契約およびFL契約は経済的足止め策に他ならず、違約金又は賠償額の予定に相当する性質も有しており、金額も年収の4分の3を超えるものであり労働者を不当に拘束するものであることなどから、CAD契約およびFL契約を無効とし、会社の請求を棄却しました。

第5条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

労働基準法

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