Case249 会社分割において会社に協議義務違反があった場合には労働者が労働契約承継を争うことができるとした最高裁判例・日本アイ・ビー・エム(会社分割)事件・最判平22.7.12労判1010.5【百選10版67】
(事案の概要)
被告会社は、HDD事業部門を新設分割してC社を設立し、これに伴いHDD事業部門の従業員との間の労働契約もC社に承継させる方針が定められました。
被告会社は、労働契約承継法7条の労働者の理解と協力を得るよう努める措置(7条措置)を行うため、従業員代表者に対して説明を行うなどしました。
HDD事業部門の従業員である原告労働者らは、労働組合を通じて被告会社と商法等の一部を改正する法律附則5条1項に定める協議(5条協議)を行いましたが、被告会社の説明が不十分であるなどとして原告らに係る労働契約の承継につき異議を申し立てました。
第五条 会社法(平成十七年法律第八十六号)の規定に基づく会社分割に伴う労働契約の承継等に関しては、会社分割をする会社は、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成十二年法律第百三号)第二条第一項の規定による通知をすべき日までに、労働者と協議をするものとする。
商法等の一部を改正する法律 附則
しかし、会社分割の登記がなされC社が設立されて原告らの労働契約も承継されました。
本件は、原告らが被告会社に対して労働契約上の地位確認等を求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、5条協議の趣旨は労働者の保護を図ることにあるとしたうえ、特定の労働者との関係において5条協議が全く行われなかった時には、当該労働者は労働契約承継を争うことができるとしました。
また、5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が不十分であるため、法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、分割会社に5条協議義務の違反があったと評価してよく、当該労働者は労働契約承継の効力を争うことができるとしました。
他方、7条措置は、分割会社に対して努力義務を課したものと解され、これに違反したこと自体は労働契約承継の効力を左右する事由になるものではない。7条措置において十分な情報提供等がなされなかったがために5条協議がその実質を欠くことになったといった特段の事情がある場合に、5条協議義務違反の有無を判断する一事情として7条措置のいかんが問題になるにとどまるものとしました。
そして、本件においては7条措置及び5条協議が不十分であったとはいえないとして原告らの請求を棄却しました。